いいでしょう。この先導する問いを「Quest Topic」と呼んでいます。 読書は、本文を読んでいる最中の行為だけを指すものではありません。本に出会って内容を想像するところから始まって、読み終わった後にさまざまに考えを巡らす過程まで含めて、読前、読中、読後のすべてのプロセスが読書であると考えます。 物は試し、探究型読書を実際にやってみましょう。「Quest Readingノート」(次ページのQRコード)をダウンロードして両面印刷をすると、一冊分の探究型読書のノートとして活用いただけます。 探究型読書では「読前」がとても重要。本文を読み始める前に、本に対して自分なりの想像力を働かせておきます。この読前のひと手間をかけることで、読者は受動的な読み手から主体的な本との対話相手へと変身することができます。 読前では、まだ本文に入らずに表紙と目次だけに目を通します。その際も単に文字を読むのではなく、「伏せて開ける」効果を使いながら本の輪郭をつかみます。情報は「伏せる(隠す)」ことで「開いた」ときの印象が鮮明になります。私たちはインプットされた情報によってのみ事象を認識しているのではなく、その情報の「不足(ない状況)」によって自分の想像力を刺激し意味をつくり出しています。「伏せて開ける」ことによって、想像力が存分に動き出し、読書体験を一気に深めることができるのです。①表紙まわりを眺める 表紙、裏表紙、ソデ、オビなど。「この本はどんな本だろう?」と想像力を働かせながら表紙の情報を吟味します。②目を閉じて、表紙の情報を思い出す(伏せる) タイトル、著者名、オビの文言など、表紙を見ずに思い浮かべてみましょう。さっき見たはずの情報なのに、あちこち思い出せない空白だらけになることでしょう。それで結構です。③目を開けて表紙を確認する(開ける) 今思い出せなかった空白に、情報が流れ込んできます。「伏せて開ける」ことによって、情報がより印象深く刻まれ、想像力をかきたてます。 同様の手順で、目次も読みます。目次の1ページ目に1分ほど目を通したら、10秒ほど目を閉じて書かれていたことを思い出し、目を開けて確認します。これを、目次を読み切るまで繰り返します。目次の大きな構造をとらえるつもりで頭に入れるようにするとよいでしょう。目次は本の設計図であり、読書のための地図になります。 表紙まわりや目次から、キーワードとホットワード(第1回参照)を抜き出して、落書きするようにメモしていきます。それを組み合わせたり、並べ替えたりすると、本の輪郭がだんだんとはっきりしてきます。 もう一歩進めて、この一冊を読み終わったあと自分は何を思っているか、という読後の自分を想像してみてください。「読前」の仕上げとして、3〜4人でグループになって、Quest Topicと選んだ本の共有をすることをおすすめします。どんな問いの束があったか、なぜその本を選んだのか、どんなことが書いてありそうか。「あたかも読んだかのように」仲間に教えてあげてください。脳は振る舞いに騙されるので、「読んだつもり」で話をするとそれを追いかけるように想像力がフル回転します。 いよいよ本文に入っていきますが、探究型読書では頭から一字一句を読む方法はとりません。読前に立てた仮説や自分の問題意識を頭に置きながら、ザクザクとページをめくっていきます。著者はたいてい、文中に小さな「問い」とその「答え」を組み込みながら本文を構成しています。著者の問題意識とそれにまつわる発見といってもいいでしょう。こうした著者がかりにして思考を進めることを目指します。自分の問題意識や仮説をフィルターにして本から情報をすくい上げ、それによってまた自分の仮説を進めていく。探究型読書においては、徹頭徹尾、主体は読者の側にあるというスタンスをとります。「問いが先導する読書」と言ってもSTEP1「読前」:目次読みSTEP2「読中」:QAサイクルを回す安藤昭子あんどう・あきこ● 編集工学研究所・代表取締役社長。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、企業や学校に展開中。著書に、『才能をひらく編集工学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング)など。452022 JUL. Vol.443
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