キャリアガイダンスVol.443
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472022 JUL. Vol.443取材・文/塚田智恵美「北海道森町プロジェクト」は、当初の予想をはるかに超える展開になったと、担当教員であるクリエイティブイノベーション学科教授、若杉浩一氏は語る。 学生たちは1カ月間現地に滞在し、地域の産業や暮らしについて調査した。当初は行政からのお題に沿っていた学生たちだが、3週目には若杉氏いわく「覚醒」。「大人たちは、農産物を使った特産品や、観光地化といった〝経済資源のデザイン〞を想像していた。しかし学生たちは、森町の営みに触れたことで、ここでの『暮らし』そのものが資産だと気づいたのです。そして、付け焼き刃な産業開発アイデアではない提案を考え始めた」(若杉氏)。 地方に縁のない東京の学生が、森町の中に見つけた、新たな価値。それは「この地域の暮らしに関われること、何かを与えること自体が喜び。消費で繋がったとしても本質的な幸せは得られない」ことだった。学生によるプレゼンテーションを聞いた行政の担当者たちは、とても喜んだという。「自分たちの町がもっていた宝物に気づき、心が溶ける、誇りが取り戻されるような瞬間だったと思う」と若杉氏は語る。新しい「町と人との繋がり方」を創造しようと、研究を引き続き行う学生もいるそうだ。 予定調和のなかで終わってしまう産官学プロジェクトも多い。なぜ森町を訪れた学生たちは、想定を超えて、町の人たちの〝意識変革〞をもたらすまでに至ったのか。「それはデザインやアートが、本質を問い続ける行為だから」と話す若杉氏。デザインやアートによる表現とは、絵を描いたりものを作ったりすることだけではない。「対話によって自己と他者の本質を考えること。概念を言葉にすることや、新たな活動にすることも表現なのです」(若杉氏)。 そして、その力が今、既存の考え方では到底解決できない社会課題を前にして求められている。経済をつくる活動は行きつき、環境を脅かすまでになった。従来の産業の形に縛られずに、地方に眠っている本質的な価値を見つけて、町の人と一緒に新たな生き方や働き方を生み出せる人材を――。こうした社会の要請を受けて、具体的な課題を前に「人間に寄与するデザイン」を実践する方法を教えるのが、2019年、武蔵野美術大学 造形構想学部に新設されたクリエイティブイノベーション学科なのである。基礎課程(1・2年次)でデザインやアートのものの見方を身につけ、専門課程(3・4年次)では実社会のリアルな問題の中で応用してみることで、実践力を習得する。「人の意識が変わると未来が変わる。意識を変えていくのもデザインの大きな役割」と若杉氏。美術大学ならではの教育によって、社会課題解決の新たな担い手の育成が期待される。 人口減少、高齢化、地方経済の縮小…。全国の地方が課題を抱えるなか、さまざまな自治体が積極的に大学と連携し、学生と共に地域活性化の取組を行っている。森林資源の豊かな北海道森町も、その一つだ。地域の未来や再生の方法を模索して、2021年に武蔵野美術大学との連携プロジェクトを開始した。ところが、この行政のお題を根本から覆し「町と繋がる喜び」を発見

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