2022年度より必修科目「地理総合」が始まりましたが、地理専門の教員が不足している、という声もあります。地理への関心が低い生徒もいるなかで、授業をどう形づくればよいでしょうか。奮闘中の先生の実践をご紹介します。内で従来の定時制・通信制に捉われない新しいタイプの高校として2018年に開校した。門をくぐった生徒のなかには、小中学校では注意されることの多かった生徒や、不登校だった生徒もいて、概して自己肯定感が低かったのだ。また、同校は一人ひとりが自分の計画に合わせて学習時間帯を選択できる教育課程を採っており、学校の出入りは自由で、おかげで伸び伸びと学べるのだが、ともすれば授業を休みがちになる、という課題もあった。 だから恒吉先生は、「全員が授業に参加する」ことも大切にしている。単に出席するという意味ではなく、全員が地理に関する『なぜ?』を考えるような場にすることだ。さらに授業を通して、次の3つのことも意識づけようとしている。 「『自分も他人も大切にする』『時間やルールを守る』『あいさつをする』という3つです。本校ではこれらを『みらいをつくる礎』として掲げているのです」 授業では学習内容をまとめたプリントをまず配付する。そのプリントを教室のモニターにも映し、恒吉先生と生徒で対話しながら進行し、要所要所で生徒がプリントの空欄を埋めたり、自由記述欄に自分の考えを書いたりする。授業後は 広島みらい創生高校の恒吉佑哉先生は、地理の授業を通して、学習指導要領にもある「公民としての資質・能力」を育みたい、と考えている。グローバル化する国際社会において、自分たちで主体的に社会を形づくっていくような力だ。 「例えば、普段当たり前のように買っているものについて『なぜこの値段か』『なぜこっちが安いのか』を考えてみたりと、物事を『なぜこうなんだろう』という視点からも捉え、自分や社会にとってよりよい判断をできるようになってほしいと思っています。そのための知識や思考力を授業で育みたいです。また、多文化社会のなかで生きていく生徒たちだからこそ、地理に関する『なぜ』を考えるなかで、自分には関係ないと思っていた『世界』との結びつきも感じてほしいと思っています」 地理では世界の地形や気候、産業のことなどを学ぶわけだが、同校の生徒は「身近ではない遠くの事象」になると、自分の生活とのつながりをうまくイメージできず、興味を抱けないことが多いという。それだけに授業では「世界のことを生徒の身近なことと関連づけて示し、興味を引く」ことも目指している。 公民的資質を伸ばす前段階で、生徒に感じている課題もある。同校は、広島県なぜだろうと考える力をつけ自分も他人も大切にしてほしい生徒に対する想い広島みらい創生高校(広島・市立)地歴公民科恒吉佑哉先生今号の先生身近なことから世界のことまでさまざまな問いを生徒が考える授業の実践取材・文/松井大助撮影/石中 仁生徒の発言から話を広げることを意識しています大学卒業後、広島県で高校の教員に。2022年度から始まった「地理総合」の授業については、地理専攻の恒吉先生が軸となり、日本史専攻および世界史専攻の同僚の先生と一緒に授業づくりを進めている。開校当初より勤務する現任校では、生徒指導にも力を入れている。562022 JUL. Vol.443
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