■ 広島みらい創生高校(広島・市立) そうして生活における輸入の必要性を感じたうえで、貿易の話に入る。世界中で自由に貿易できると良いが、国同士の利害が衝突し、輸出入には制限がかかりやすい。その壁を越えるべく、日本は多くの国と2カ国間のEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)を結んでいる。だから私たちは輸入農作物などを安く買うことができ、また、国内で不足する医療現場などで働く人を海外からも呼べるようになった。だが一方で、国内の農業生産者が減少し、立場の弱い外国人労働者が困難を抱える課題も生まれている…。 そこまで話を展開したあとで、恒吉先生が新たな問いを投げかけた。「EPAやFTAを維持しつつ、日本の食料自給率を高そのプリントを手持ちのファイルに綴じ、校内のロッカーに保管する。ノートを取るのが苦手な生徒や、ノートを忘れやすい生徒を置き去りにしないための手立てだ。 1年生の地理総合のある日の授業では、「貿易によって結びつく世界」のことを学んだ。恒吉先生が投げかける。「今日の目標は『なぜ日本はEPA・FTAを結ぶのか』を自分で考えていくことです」と。この時点では「語句の意味はまだわからなくていいよ」と断ったうえで、続けて生徒に質問する。「自分が好きな料理は何? その料理に使用される食材を挙げてみよう」と。次いで、食材別に食料自給率をまとめた表を見ながら、「貿易に頼らずにその料理を作ることができそうか」を各自が調べた。めるにはどんな方法が考えられる?」。生徒はおのおのに頭をひねり、図1にあるようなアイデアを出した。恒吉先生が補足する。日本は国土の4分の3が山地で、食料自給率を高めにくい一面もある、と。 最後にまとめとして改めて問う。「なぜEPAやFTAを結ぶのか」。授業で学んだ貿易協定の必要性を、生徒に自分の言葉でまとめてもらうための発問だが、「そこには課題もある」ことを知り、今後も考えてもらうねらいもあった。 始まりこそ身近な話題だが、考えることは国際問題。途中で「難しい」と投げ出しそうになる生徒はいないのだろうか。 率直に言えば、少なからずいる。だからこそ恒吉先生は、机間指導を重視している。食材の自給率を調べるときも、食料自給率を高める方法を考えるときも、一人ひとりの机を回って生徒の記述に目をとめ、反応し、考えずにやり過ごそうとしている生徒がいれば発破をかける。 「生徒からはどちらかというと『厳しい先生』と見られているようです。面倒くさいと思われている部分もあるでしょうが、ただ、最終的には生徒は『ちゃんと自分のことを見ているかどうか』で、こちらとの向き合い方を決めていると感じています。関係性ができてくると、ちょっとずつ授業に臨む姿勢が変わってきます」机間指導で一人ひとりと対話人間関係を築き、思考も促す図1 問いを基に生徒が考える授業一例まとめ:なぜ日本はEPA・FTAを結ぶのか?教育目標に「生徒一人一人の個性を最大限に伸長させ、社会の発展に貢献できる人間性豊かな活力ある人材を育成する」ことを掲げる。定時制と通信制があり、午前・午後・夜間など時間帯によって教育課程が分かれる三部制定時制高校とは違い、午前から夜間まで幅広い時間帯から科目を選択できる「フレキシブル課程」を採っている。小学校や中学校の授業内容を学び直す講座や、広島大学と連携したソーシャルスキルを高めるプログラムも展開。キャリアデザイン科(総合学科)/2018年創立生徒数(2021年度)1768人(男子947人・女子821人)進路状況(2021年度)大学68人・短大8人・専門学校/各種学校82人就職35人・その他125人〒730-0051 広島県広島市中区大手町四丁目4-4 082-545-1671 http://www.miraisousei-h.edu.city.hiroshima.jp①自分の好きな料理を思い浮かべ、その食材をリストアップ。食材別の自給率の表を参考に、他国との貿易に頼らずに作れるか考える(→輸入の必要性を感じる)②各国の利害がぶつかり輸出入は制限を受けやすいこと、そのなかで2カ国間のEPA・FTAという貿易協定が生まれたことを学ぶ。その成果(安価な輸入品)や課題(国内の生産者減少)も押さえる③EPA・FTAを維持しつつ日本の食料自給率を高める方法を考える【生徒の案】・みんなが農業をやる。一家に一農。・小学校や中学校の授業で農業をやる・野菜やニワトリやブタを育てる・活用していない土地を農地にする・全国のニートの人を農業に誘う机間指導中。生徒を観察し、いつもとは様子が違うと感じて、体調不良や悩みがないか尋ねることもあれば、楽をしたがっているのを察して、きちんと考えるように促すこともある。572022 JUL. Vol.443
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