キャリアガイダンスVol.443_別冊
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3Vol.443 別冊特集問に感じた読者もいるかもしれない。理系の技術職、システムエンジニアの一種というイメージをもっている読者もいるはずだが、図2の回答を見ると、そうとも言い切れなそうだ。 そこで、野村総合研究所(NRI) 未来創発センター データサイエンスラボ長で、一般社団法人データサイエンティスト協会の理事でもある塩崎潤一氏に話を聞いた。 「データサイエンティスト協会が設立されたのが今から約10年前※です。当時はデータサイエンティストという職種も明確に認識されておらず、約10年でようやく認知されるようになってきた新しい分野なのです。協会がデータサイエンティスト検定という資格制度をスタートしたのも2021年ですから。つまり、現在の人材不足の要因の一つは『なろうとする人が少なかった』ということにありますね。また、大学・企業にデータサイエンティストを育成する環境やノウハウがなかったことも大きな要因です」 しかし、GAFAに代表されるグローバル企業がデータを活用したビジネスで大きな成功を収めるようになり、多くの企業がデータサイエンスの重要性に目を向けるようになった。同時に、ビッグデータやIoT、センサーなどのテクノロジーが発達したことで、データそのものは大量に集められるようになってきた。「さて、このデータを使って何ができるか」という課題意識をもつ企業が増え、まさに今が、データサイエンスに関する風向きが変わり始めたタイミングといえる。 ここで前出の問いに戻ろう。データサイエンティストとはどのような力が求められる仕事なのだろう。 「データサイエンティストには3つの力が必要とされます(図3)。一つは、統計学を駆使してデータを解析するデータサイエンス力、もう一つが、Python(パイソン)などのコンピュータ言語を使ってシステム構築できるデータエンジニアリング力、そして最後の一つが、データをビジネスに活かすためのビジネス力です。データサイエンティスト協会では、この3つの力をバランス良くもっていることを重視しています」 データサイエンティストはこのように文理が融合した新しいタイプの仕事だ。そのため、ニーズが顕在化した現在も育成の難しさは課題だという。大学の問題でいえば、既存の理系学部、文系学部の枠組みのなかでは、上記の3つの要素をバランス良く教えることが難しい。また、企業においても、そもそもデータサイエンスについて教えられる人材がいないという課題がある。 もちろん、実務においては、一人のデータサイエンティストがデータ解析、システム構築、ビジネス課題解決のすべてのプロセスに関わるわけでなく、分業は行われている。しかし、この3つの領域どれかに専門特化した人材同士による分業は、全体の非効率を生み出す。お互いの考え方が理解できず、共通言語もないため、議論を重ねるなかで課題を発見し、その分析に適したデータを集め、加工・解析し、解決策を見出すというデータサイエンスのダイナミズムが生まれにくいのだ。 とはいえ、ビジネスにも、数学にも、エンジニアリングにも通じたエキスパートを育成するのは非常に難しそうだ。 「10点:10点:10点の人材を育てようとしても、現実的には難しいでしょう。ですから、私は3:3:3でいいと思っています。どこか一つを強みとして4:3:3にできれば理想的ですね。今までの教育や人材育成は10:0:0を目指していましたが、3:3:3の人材が集まったほうが、お互いの役割や発想を理解でき、チームとしては機能しやすくなりますから」 ここで塩崎氏が重視するのは「数値の力」だ。明確に示された数値は、文系のマーケティング担当やコンサルタントにとっても、理系のエンジニアにとっても共通言語になる。つまり、データサイエンスを企業内に浸透させることによって、共通の認識をもって仕事ができるようになるのだという。 「実はNRIがデータサイエンスラボを立ち上げた理由の一つもそこにあります。社内のコンサルティング部門と、システム開発な出所/一般社団法人 データサイエンティスト協会※協会設立日は2013年5月15日。データサイエンティストに求められる3つの能力図3ビジネス力情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力課題背景を理解したうえで、ビジネス課題を整理し、解決する力データサイエンス力データエンジニアリング力

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