ータを生命科学や医学の研究者と協力して次々に取得することができる。医学部と工学部が両方ある大学はありますが、医学部とデータサイエンス系の学部が両方あり、協働している大学はほかに例がありません。ゲノムのデータなどもデータサイエンティストにとっては魅力的ですし、本学には獣医学部もありますから、例えば、“犬を飼っている人のメンタリティ”という切り口でデータを集めることもできる。自由な発想を刺激してくれるデータの宝庫という意味で、データサイエンスを学ぶうえではこの上ない環境だといえるでしょう」 また、データサイエンスは学内の各学部に横串を刺す存在ともなるという。各学部がもっているデータを結びつけることによって新たな知見が生まれ、それが各学部の研究や学びに影響を与えることも期待されている。 では、前述のような人材を育成するための具体的な教育内容について見ていこう。4年間の学習のプロセスは図3に示した通り。数学や情報科学について基礎から着実に学びつつ、社会を知り、人を知るための幅広い教養、北里大学の強みを活かした生命科学系の知識も1年次から学んでいく。 「導入教育から実践的に学び、データサイエンスの魅力を垣間見せることを重視しています。例えばですが、学生数人でチームを組み、キャンパス前のバス停の乗降客について、年齢層や性別、曜日や時間帯による違いなどを実際に自分たちで調べてみる。そうすることによってデータを取る大変さも身をもって理解できますし、自分たちが集めたデータからどのような仮説が立てられるか、モチベーションをもって考えることができるでしょう。あるいは医療現場に入ってみるのも面白い。現場の人の動きなどを見ながら、課題を見つけ出し、必要なデータを集めて解析するといった学び方も考えられます」 1、2年次で数学やプログラミングに関する技術を習得したら、3年次以降はよりデータサイエンティストとしての出口を意識した学びを展開していく。その一つがテキストマイニング(文字列を対象に有益なデータを掘り当てること)。例えば、医療現場のカルテから意味のあるデータを拾い出し、解析することにも取り組む。また、大量のCT画像やMRI画像を解析するプログラムを自分で組んでみるといった実践的な学びも行う。 3年秋からは、それまでに積み上げた知識や経験を活かしつつ、図4に示した8つの分野に分かれた研究室で、自分の興味がある個別の専門性を伸ばしていく。 細胞や臓器などの画像データから隠されている情報を読み解き、創薬研究や診断に役立てるバイオイメージインフォマティクス、生命現象の背後にある複雑な相互関係を見直し、従来とは異なる数理的な関係を見出して、未来を予測するデータモデリング、さらには人工知能や生物統計、メディカルインフォマティクスなど、それぞれの研究室で高度な研究を重ねることにより、データサイエンティストとしての実戦力を磨いていく。 では、このような学びは、具体的にどのような卒業後の進路へとつながっていくのだろうか。生命科学に強みをもつ北里大学でデータサイエンスを学ぶことにより、医学や創薬研究に関わるデータサイエンティストという働き方は当然選択肢の一つとなる。 「将来的にはデータサイエンティストが医療チームの一員として活躍するでしょう。データに基づいて治療法を提案するといった役割も考えられます」 しかし、将来の選択肢は生命科学系の領域だけにはとどまらない。仮説を立てて、データを集めて、加工・解析するデータサイエンティストとしての本質的な能力やプログラミング能力は他分野でも十分に活かせるからだ。 未来工学部データサイエンス学科が育成を目指すのは図5で示した「π型人材」だ。データサイエンスを軸とした情報科学系のスキル、生命科学系のスキルの2つの専門性を柱として、その他の分野に関する幅広い知識も有する人材となれば、活躍の可能性は広がる。興味関心があれば、自分で学んで、在学中他分野の縦の柱をもう一本伸ばしてもいい。それによって将来の選択肢を広げることもできる。 「未来工学とは、文字通り、未来を見つめ、進むべき道を切り拓く学問分野です。データサイエンスこそが未来への羅針盤となる学問ですから、未来工学部の最初の学科として設置される意味は非常に大きい。一緒に未来を切り拓いて共にワクワクできる学生にぜひ入学してほしいですね」未来工学部が育成を目指すπ型人材図5幅広い学問分野、ビジネスに関する知識データサイエンスを軸とする情報科学系の専門性医療、生命科学系の専門性7Vol.443 別冊特集
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