キャリアガイダンスVol.444
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した話題になりました。柔道とのギャップに驚かれた方もいると思いますが、本人はいたって真面目でした。なぜ、アイスなのか、それには理由があります。私は、幼いころから食が細く、偏食がありました。甘いものやジャンクフードを好んで食べていたこともあり、頻繁に骨折していたんです。このままではまずいと思い、大学を卒業するころからは食生活を見直し、甘いものを我慢するようにしたんですが、本当は食べたくて仕方なかった。ちなみに、減量が必要な競技のアスリートにはアイス好きが多いんです。水分が減ると体が火照るため、冷やしたい意識が働くんですね。でも極限状態でもあるため食べると胃もたれしてしまう。ですから、現役中ずっと「アスリートでも罪悪感なく食べられる、体にいいアイスってないのかな」と思っていました。そんなことを、ベンチャービジネスのサポートやアスリートのセカンドキャリアにも携わっている所属会社の社長に話していたところ、話が急展開。体にいい素材を使用し、アレルギーにも配慮したアイスの開発や販売を会社の新事業として立ち上げることになり、私もスタッフとして加わることに決めたんです。そうして2019年2月、第一号店舗となる「ダシーズギルトフリーアイスクリームラボ」が東京富士大学(東京都新宿区)1階にオープンしました。二の人生、アイスクリーム作ります!」。そう答えた2019年2月の引退会見が、ちょっと最初は戸惑いもありました。何しろ人と一緒に働くことが初めてで、距離感がつかめません。現役時代、相手の弱点をどう引きずり出すかばかり考えていたこともあり、どうしても、一緒に働くスタッフの短所が目についてしまうんです。自分のことは棚にあげ、「なんで、こんなこともできないんだろう」とイライラすることもありました。でも職場の方に、「人には、それぞれ役割があるんだ」と教えていただき、見方を変えることができました。試合では相手を、いわば「殺そう」と思っていたわけですが、「生かそう」に変えればいいだけ。次第に人の長所に目が向くようになってきました。また、最初は集中力の使い方がわかりませんでした。アスリートの世界って、集中するのはせいぜい3時間。練習の間に休憩を挟みますし、試合本番に向けてピークコントロールも行います。しかし、アイス屋では一日中同じテンションで立ち続けなくてはいけません。最初のころは午前中必死に働いて、午後は疲れ果てていました。アイスの開発中に、ヘラを不用意に何度も焦がすなど、できない自分もいましたが、「できない=失敗」ではなく、「次の道が拓けた」と前向きに捉えていました。まったく新しい世界とはいえ、柔道選手とアイス事業には重なる部分がたくさんあることも気づきました。例えば先を読むこと。柔道ではイメージすることが大切柔道とアイス。違う分野に見えて重なる部分が多かった取材・文/堀水潤一 撮影(メイン)/平山 諭2022 OCT. Vol.44416世界で戦った体験をセカンドキャリアに生かした元柔道家。何気ない日常からヒット商品の着想を得た京菓子店の女将。外国での実体験から学びの必要性を知った教育事業家。予想外の失敗体験から起死回生を果たした経営者。体験から気づきを得て、新たな場や挑戦に生かした4人の物語をお届けします。      第 引退後に選んだアイス事業というセカンドキャリア。柔道との共通点を見出し、新たな道を拓く

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