キャリアガイダンスVol.444
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学校に留学していたくらいです。それが老舗の8代目との結婚を機に人生が激変しました。当初、店は手伝わない約束でしたが、暇を持て余し気づくと2年後には店頭に立っていました。すると、経営状態が深刻なことや、その理由の一つが若者の和菓子離れにあることがわかりました。そこで、留学経験も生かし、デザイン性や遊び心を取り入れた新商品を社内で提案したんですが、伝統を重んじる職人は猛反対。それでも食い下がったところ、おみくじ入りのお汁粉が予想以上の人気を博し、その後もヒットが続くようになりました。その一つが、「スライスようかん」です。    創シート状の羊羹を食パンに載せて焼くだけで手軽に小倉トーストができるという変わり種。きっかけは、朝の食卓での体験でした。甘党の次男は食パンに餡子を載せてトーストするのが好きなんですが、冷えると塗るのが面倒です。一方、長男はチーズを載せて焼く派。「餡子もこんな風に塗れたらいいのに」と思っていたところ、百貨業1803年の京菓子店で女将をしていますが、結婚する前は、和よりも洋。パリの料理店の催事担当者から「餡子を使った新商品を提案してほしい」という依頼があり、アイデアを形にすることにしたんです。工夫したのは厚みです。試行錯誤を重ね、最も適した2・5ミリを採用しました。また、つぶ餡をミルで細かく潰してからペースト状にする方法を考案。こし餡だと風味が物足りないからです。小豆は夫のこだわりで丹波大納言を使用。餡子にうるさい次男のOKをもらったうえで商品化しました。こうした経験を通じて改めて感じたのは、先人によって熟成されてきた伝統を、今の時代にあわせたり、使い方やシーンを変えたりするだけで新たな魅力が生まれることもあるということ。スライスようかんも、おやつで食されていた羊羹を、朝食へとシーンを変えたところターゲットが広がったわけです。マラソン時などのエネルギー補給用の羊羹もありますが、そのような発想から生まれたのでしょう。商品を考える際には、ちょっとした日常の体験や、日々、感じることも役に立っています。冗談から生まれたような商品ですが、メディアで紹介されたこともあり、当店最大の売上を記録するまでになりました。特に男性や若い人の来店が増えたのは嬉しいです。デパ地下の和菓子売り場に若者の姿はまれ。製菓学校でも大半はパティシエ志望らしく愕然とします。でも、知らないだけで魅力はあるんです。そのためには手にとってもらわないと始まらない。デザインにこだわるのは、そうした思いからです。食パンに餡子を塗ってと次男にせがまれる。面倒に感じたことを契機にスライスした羊羹を考案したところ大ヒット。伝統的なものであっても、使い方やシーンを変えるだけで可能性は広がっていくことに改めて気づかされる。素材や伝統を重んじつつも、デザインへのこだわりなどを通じて、多くの人に和菓子の新たな魅力を伝えていきたいと再確認。食パンに載せトースターで焼くだけで、焼き立ての小倉バタートーストが完成。年間15万袋を売り上げる大ヒット商品に。よしむら・ゆいこ●1977年京都府生まれ。同志社女子大学生活科学部卒業後、渡仏。Le Cordon Blue Paris校でフランス料理を学ぶ。帰国後、自宅で料理教室を開いていたが、2001年亀屋良長8代目との結婚を機に和菓子の世界へ。売り場を手伝いながら1年間和菓子学校にも通学。商品企画・開発を手がけるほか、健康志向の別ブランド「吉村和菓子店」店主も務める。2022 OCT. Vol.44418食卓の何気ない体験からヒット商品が!伝統を日常のシーンに置き換える

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