キャリアガイダンスVol.444
3/66

体験を振り返り、自分にとっての意味を見つけることが、学びの一歩。体験からの学び為末大Deportare Partners私3\代表元陸上選手は「学習」と「学び」を分けて考えています。例えば、ハードルを跳んで何度か転んだ結果、「ハードルは足が合わないときに転びやすい」と理解するのは学習です。個別の状況にはそれで対処可能ですが、その学習はあくまでその状況に適応したものです。そこから「一体なぜ転ぶのか」と問いを深めていくと、「環境は瞬間瞬間に移ろうもので、それにうまく柔軟に合わせられないときに、人は転倒する。転倒とは自分本位すぎた結果である」という結論に到達します。もちろん、人によって着地する結論には違いがあります。個別の学習から一段上がり、普遍的な法則を考えようとするところに学びがあると、私は考えています。 体験を学習で終わらせず、学びへとつなげるために大事なのが、「要約する」というステップです。私たちは体験したことを、そのときの感情や印象によりバイアスのかかった状態で記憶します。つまり、その体験が自分にとってどのようなものであったという意味づけが重要だということ。一般的にどうかではなく、自分にベクトルを向けながら体験を振り返ることが大切です。興味深いのが、同じ体験をしても、何が響くか、何を学ぶかは人それぞれだということ。特に教育や子育てのシーンでは、大人が「こうあるべきだ」という思い込みを捨て、「子どもが面白そうに取り組んでいるならOK」と思うことも大事なんじゃないかと思います。 体験を学びに昇華させるためには、それを補足する知識も必要です。新しい知識に出会ったときに、過去の体験と結びつけて「あれはこういうことだったのか」と腹落ちする。知識として知っていたことを実際に体験して、「これがあれか」と実感する。私自身、現役時代は「体験」が中心の生活をしていたので、引退してから、こうして具体と抽象が結びつく瞬間を何度も経験してきました。学校教育も同じだと思うんです。これまで日本の教育では体験や活動が足りず知識偏重・内省型だったという反省のもと、アクティブ・ラーニングなどの学び方が取り入れられています。でも、これまでの教育が悪かったわけでは決してありません。大事なのはバランスです。体験後にモヤモヤと考える時間も必要で、すぐにはかたちにならないことも忘れてはならないでしょう。 これからは、学び続けながらパフォーマンスを高めていく時代です。「学び方」を学ぶことが大切であり、子どもたちはまさに、体験を通して学び方を学んでいきます。そんなときに大事なのが問い。「どうしてそう思ったの?」と、生徒自身に考えさせ、言葉を引き出す問いかけを、ぜひ実践していただきたいと思います。今号のオープニングメッセージ取材・文/笹原風花 撮影/坂本宏志ためすえ・だい●1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2022年8月現在)。現在は執筆活動、会社経営を行う。Deportare Partners代表。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。YouTube為末大学(Tamesue Academy)を運営。国連ユニタール親善大使。主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。2022 OCT. Vol.444

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る