は「起源をたどる」ことをおすすめします。もともとどこから来たものなのか、どういう経緯で今にいたっているのか。「はじまり」の風景を眺めてみましょう。私たちは必ずやなんらかの枠組みを通して物事を理解しています。そうした「枠組み(パターン)」は、日常の混乱を避けるうえでの便利な道具である一方で、古い認識に私たちを縛り付けるやっかいな足枷でもあります。この枠組みを取り扱う切り口として、編集工学ではしばしば「略図的原型」という見方で事象を捉えます。「略図的原型」には「ステレオタイプ(典型)」「プロトタイプ(類型)」「アーキタイプ(原型)」の3つがあります。「〜といえば◯◯」といった表層的な連想からくるステレオタイプ(典型)、「◯◯とはつまり〜」と事象の概観を捉えるプロトタイプ(類型)、「◯◯はそもそも〜」と起源をたどるアーキタイプ(原型)です。第2回の例で出した「お弁当」を略図的原型で捉えてみると、例えばこんな感じになるでしょうか。「お弁当といえば、幕の内(ステレオタイプ:典型)」、「お弁当とはつまり、持ち運べる器に食事を詰めたもの(プロトタイプ:類型)」、「お弁当はそもそも、屋外の労働に出かける際の食事として、古代からさまざまな形で携帯されたもの。また『弁当』という言葉は…(アーキタイプ:原型)」。「略図的原型」は情報を俯瞰的な目で捉え直す際に役立つ型ですが、このなかの「アーキタイプ(原型)」を掘り下げていくことが、ここで言う「起源を見る」ことにあたります。自分のイマジネーションの範囲に閉じずに、さまざまな知識を参照しながらアーキタイプを仮説していきます。ここでもまた「探究型読書」が役立ちます。あくまで自分の仮説を組み立てるための読書ですから、何を知りたいのか、どんな情報を探しているのか、問いを立てながらざっとスキャニングするように目を通します。なるべく情報を立体的にしていくためにも、複数冊を手に取ることをおすすめします。1冊10分でも構いません。これはと思う本があれば、腰を据えて読み込んでみるといいでしょう。どんな事象も長い時間を経て意味の旅をしてきているわけですが、私たちはたいてい、今見えている姿や印象でしか物事を捉えていません。どこかで定義されたプロトタイプ(類型)や、現在に流通しているステレオタイプ(典型)を超えて、まっさらな目で物事を捉えるには、そうした認識の枠組みができ上がる前のアーキタイプ(原型)を訪ねるのが手っ取り早いのです。ある事象(お弁当ならお弁当)の社会的な起源をたどっていくだけでも、さまざまな発見がありますし、うまくフィットすれば、すぐにでも行動を起こしたくなるような好奇心もむくむくと立ち上がってくるでしょう。探究活動へと続いていく問いを結像させるうえで、大事なことがもう一つあります。問いにまつわる「個人的な起源」にも目を向けることです。「なんでこんなことが気になるのか」、「どうしてそこに違和感を覚えるのか」。自分の内面に耳を澄まし、好奇心の正体に目を凝らしてみましょう。「私の好奇心」のアーキタイプ(原型)を訪ねるつもりで、おさないころの記憶にまで遡って、まだプロトタイプやステレオタイプで埋め尽くされる前の自分と対話してみてください。そこから今に向かって、問いの起源をさぐっていきます。無性に好きだったもの、不思議で仕方なかったこと、やけに切なかった思い出…。ほかでもない自分自身の記憶や感覚のなかに、今抱えている問いにつながる原体験があるかもしれません。直接関係していなくても、「そうか、それでこのことが気になっているのか」と思い当たる節があれば、それも大切な緒です。おさなごころと五感を開放して問いにまつわる記憶をたどるなかで、色合いや質感を伴ってさまざまな連想が引き出されてくるかもしれません。そうであればきっとその問いは、「あなた」にとって大切な問いであるはずです。もしも何も心が動かなければ、それは今「あなた」が問うべき問いではないのかもしれません。どんな知識を集めてきても、それが自分の内面と接続していなければ、その先の探究心を動かす根源的な問いにはなりません。客観的な知識を扱う「評論家」ではなく、内面の知性に突き動かされる「探究者」であるために、「〝物事〟と〝私〟の起源を訪ねる」というプロセスを、両輪で動かしていくことをおすすめします。根源的な問いをひとたび携えると、目 に映る世界が一変します。見るものすべては探究のヒントとなり、そこかしこに次に取り組むべき問いが隠れていることに気がつくでしょう。この世界は、どこかのだれかがつくり終えた動かない風景なのではなく、今この瞬間も「あなた」に問われることを待っている、真新しい可能性の塊であることを実感することでしょう。アンラーンのコツ 「おさなごころ」をたどるその2:新たな世界が出現する45安藤昭子あんどう・あきこ● 編集工学研究所・代表取締役社長。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、企業や学校に展開中。著書に、『才能をひらく編集工学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング)など。2022 OCT. Vol.444
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