木村先生は、中学生のころから学校の先生になりたかったという。「教師になり、自分の好きなハンドボールを北海道に広げたい」というのが最初の動機だ。高校生になると、よく相談に乗ってくれた先生の影響で、「生徒のやりたいことを引き出し、将来に向けてサポートするのが教師の仕事なんだ」とも感じるようになる。大学は体育専門学群に進学。3年生からのゼミでは、障害のある子もそうでない子も、誰もがその子らしくみんなでスポーツを楽しむという、今で言うアダプテッドスポーツの研究と活動に携わる。その現場で多様な子どもたちの弾ける笑顔を目にして、「みんなにスポーツを楽しんでほしい」という思いも強めていった。生徒との接し方で壁にぶつかった。と気負うあまり、「自分が思う正しさを押し付けようとしてしまった」ことだ。授業に遅れてくる生徒を、時間は守りなさいと頭ごなしに注意する、というように。何度伝えても響かない生徒がいて悩んでいると、先輩の教員から指摘された。「なぜそれができないのか、生徒の話をしっかり聞いて理解して向き合っている?」と。そこで、授業の遅刻など気になることがあれば、生徒に理由を聞き、改善するために何ができるかを一緒に考えるようにした。すると、今まで反応が鈍かった生徒そうして晴れて教師になったものの、最初のつまずきは、生徒の力になろうも前向きな姿勢を見せるようになった。続いてのつまずきは、「生徒主体の授業を、自分に導く材料がないままやろうとした」ことだ。初任校では、体育科の先輩の教員たちがアクティブ・ラーニングを推し進めていた。やることを生徒たちが考え、話し合い、溌■■■溂■として動いていく。授業を見学して感銘を受けた木村先生は、自分も真似てみた。ところが…。 「先輩の先生方の授業では生徒が楽しそうだったのに、自分の授業では苦しそうだったのです。先輩方は各種目の練習メニューなどにも詳しく、生徒に任せつつ適切なフォローをしていたのに、私はといえば、生徒が何をすればいいかわからないときも『シュートまでの流れを工夫したら?』などと具体性に欠ける助言しかできなかったからです。大失敗でした…」教員が指導の引き出しを増やしたうえで、生徒の主体性を促すことが大切だと先輩にも諭され、木村先生は力不足を痛感。課題の設定や練習方法を研修にも参加して積極的に学び、その知見を土台に「生徒が考える授業」をめげずに目指した。今の授業のやり方の原型ができるまでに、4、5年はかかったという。教員の力を伸ばしてくれた初任校には、生徒私有のスマホについて「利用を禁止するより、正しく使ってもらおう」とする土壌もあった。だから木村先生は、この当時から授業の撮影などにスマホを活用。そのなかで「ルールを明確にし、守る意識を時間をかけて育む」ことの必要性も学んだ(右上のコラムの③参照)。1オープンスキルの概念も伝えて生徒全員の技能の向上を目指す大失敗もしながら理想の授業を目指して授業ができるまで 生徒が自分で考えるのを促す一手段として、木村先生は「紙に意見や感想を書かせる場面」と、「ネットの入力フォームに打ち込ませる場面」を意図的に併用するようになった(上のコラムの②参照)。2022 OCT. Vol.44458■ 同僚の先生INTERVIEW「生徒が考える」ことを大事にして自力での成長を粘り強く待っている家庭科吉田祐貴先生 木村先生とは、互いに授業を見学し合ったほか、部活動の指導でもご一緒しています。授業を見て一番共感したのは「生徒が考える」ことを主にしていることです。ダンスの授業でも、実技の練習とは区切って考える時間を取り、しかも、生徒の技能が上がるにつれて考えるテーマも高度になるというように、段階を追ってレベルアップを図られていました。粘り強くもあります。部活動の指導でも、「よくそこまで待てるなあ」と思うぐらい、生徒が自分で課題を乗り越えるのを待っているのです。 本校の生徒は、見たことを真似ることはできても、そこから考えを発展させる思考力はまだ弱いと感じることがあり、私も家庭科の授業では「生徒が考える」ことを重視しています。「人の意見を否定しない」ことを前提に、生徒から出た意見を基に話を広げ、実生活への応用まで考える、というように。仮に授業で考えられない生徒がいたとしたら、それは考えるテーマを調整できなかった我々の責任だとも思っています。オープンスキルとは「常に変化する状況下で発揮する技術」のこと。例えば球技では、対戦相手や仲間やボールの位置がどんどん変わるが、そのなかでの判断や動き方もオープンスキルだ。スポーツの技能というのは、身体能力の向上だけでなく、「考える」ことでも高めていけることを、生徒が実感しやすい。2生徒による分析や計画、振り返りではアナログとデジタル双方の良さを生かす紙のワークシートの良さは、ネットの入力フォームより生徒がじっくりと考えやすく、見返すこともしやすいこと。時間をかけて分析や振り返りをするときに活用し、実技前に見返すという使い方もしている。ネットの入力フォームは、パッと意見を募れるので、アンケートや短時間の振り返りに活用している。3授業中のスマホ活用のルールを明確にし生徒と対話しながら違反には厳正に対処「授業の動画をSNSなどに投稿しない→一度でも起きたらもう使えない」「授業に関係ない使い方をしない→見つけたら預かる」という2点を明確に、繰り返し伝え、最初は生徒間の巡回にも注力。妙な使い方を見つけたら、生徒の事情をきちんと聴いてから、違反には厳正に対処し、使い方をまた話し合う。4ある種目で身につけた技能や考え方を「サッカーで身につけた技能や考え方を、ゴールを入れるのは同じバスケットボールにも生かせない?」「課題設定や練習方法、フィードバックで工夫したことを次に生かせない?」などといった投げかけで、これまでの授業で学んだことを、生徒が異なる競技にも応用していけるように後押しする。今後の課題解決にも応用することを促すHINT&TIPS
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