キャリアガイダンスVol.445
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キャリア発達の支援と研究を行い、今日のキャリア心理学や職業相談などに大きな影響を与えたアメリカの心理学者ドナルド・E・スーパーが提唱した概念に、「自己概念」があります。「自己概念」は、個人が主観的に形成してきた「主観的自己」と、他者からのフィードバックに基づいて形成された「客観的自己」が統合して構築されていく概念で、自己と他者、環境との相互作用によって変化し発達していくと、スーパーは唱えました。そして、仕事という環境の中で形成されていく「職業的自己概念」を実現しようとすることが、職業選択につながるとしました。つまり、生徒が自分自身の進路選択を行う過程では、この自己概念の理解が欠かせないものになってきます。さまざまな出来事や他者からの影響を受けながら、自分が何を思い、どういう価値観や能力を培ってきたのか。それを知ることが、将来への一歩を踏み出すためには大切なこととなります。統合し発展させたのが、社会構成主義の心理学者マーク・L・サビカスです。サビカスは、自己概念を自分自身の「物語(ナラティブ)」として理解するナラティブアイデンティティの重要性を説きました。特に、サビカスは、小さなストーリー(マイクロナラティブ)から大きなストーリー(マクロナラティブ)への再構成を通じて、より明確なキャリアテーマを導きだすという考え方を提唱しています。でよく行われているのが「ライフラインチャート」を使ったワークです(図)。自分の幼いころから今まで、まずは感情のプラス・マイナスを波のようにそのようなスーパーの理論などをそこで、多くのキャリア研修など示し、それぞれにどのような出来事があり、何を考えていたかを書き込んでいきます。そして、ペアワークやグループワークなどによって、他者に自分のこれまでを語り、さらに他者から質問や感想をもらうこと(フィードバック)によって、自己理解を深め自己概念やキャリアテーマを明確にしていくというものです。このライフラインチャートに代わるものとして、学校現場で義務化された「キャリア・パスポート」が大いに役立つはずです。進路指導の相談においても、キャリア・パスポートを基に自分の物語を語ってもらう。いきなりはうまく言葉にしにくい生徒にとっても、小さな自分の物語を語るナラティブアプローチを用いることによって、言語化しやすく、自分自身の特徴や思い、価値観など、自己理解が深まりやすくなるでしょう。そこで、次ページからは、文部科     学省のホームページにあるキャリア・パスポートの例示ワークシートを使って、ケースを考えてみたいと思います。嬉しい・楽しい悲しい・辛い1わやかりらたいなこいと1が年生2伝保え護ら者れにな希い望2が年生3自受信験がやな就い職3に年生年長組の時の先生が大好き小5 ・ 6 で、算数が大好きで得意小学校小4の時、不適応※苅間澤先生作成の研修資料より抜粋2023 JAN. Vol.445取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆう中2 ・ 3 の時の学級が大好き部活動で活躍。キャプテンを務める中学校高校入試で失敗。第一希望校に入学できず 【監修&アドバイス】会津大学 文化研究センター教授 苅間澤勇人先生かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。第26回生徒自身が自己理解を深め、将来に向けて自律的に動き出すことを目指す「キャリア・パスポート」。LHRや総合的な探究の時間などに、さまざまなワークと共に活用を工夫されている先生も少なくないと思います。そんな生徒の活動記録や思いが詰まったキャリア・パスポートを、進路指導の相談場面でも大いに活用してみましょう。31図 ライフラインチャート例ツールを活かすこんなケース幸福感(+)幸福感(−)進路指導に役立つツール●キャリア・パスポート誌上 進路指導ケーススタディ 生徒の理解と支援を うまく進めるには?

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