4仕事やキャリア、生き方、価値観について会社が決めてくれる時代は終わり、これからの時代は自分のことは自分自身で決定する「セルフシフト」が進んでいくVol.445 別冊特集図3で示した意識変容が前述のセルフシフトにつながっている。これからは自分の仕事やキャリアについて会社軸ではなく自分軸で考えることが求められるようになっていく(図4)。そのときに重要になるものは何か。 これまで、社会に対して価値を提供するのは会社であり、極論を言えば、働く個人は自分でその点について掘り下げて考えなくても価値提供に貢献することができた。しかし、会社軸ではなく自分軸で考え、行動することが求められるようになると、「自分は社会に対してどのような価値を提供できるのか」という問いが直接自分に向けられることになる。そうなると、「そんな自信はない…」と尻込みしてしまう人も多いだろう。しかし、平野氏は、「価値を生み出す」ことについてあまり大ごとに考えてほしくないと言う。 「新しい価値を生み出すというと、一部の優秀な人たちが生み出す、世界中を変革するようなイノベーションをイメージする人が多いでしょう。しかし、当然ながら、誰もがスティーブ・ジョブズになれるわけではありませんし、今求められている価値はそのようなスケールの大きなものばかりではありません。世の中のニーズは多様化しているので、新たな価値のサイズも小さくなってきています。サービスや商品の流通コストも下がっていますから、今は、100人、1,000人が喜んでくれるサービスを生み出せれば、それで仕事として成立し得る環境になっているんです。例えば、自分で作った手芸品をフリマアプリで全国に販売することだって立派な価値の提供。自分ひとり、あるいは家族が生活していくだけなら、そのくらいのスケールでも十分やっていけます」 そのようにスケールダウンして、自分の得意なこと、好きなことでどのような価値が提供できるかを考えていくことが第一歩。そこから始めることで、組織に頼らず、自分軸で、仕事やキャリアを考える力が養われていく。 では、自分軸のキャリアを切り拓いていくために、これからの若者にはどのような学びが求められるだろうか。例えば、「自分が社会にどう価値を提供できるのかがわからない」なら、大学でさまざまな角度から現代の社会が抱える問題について知ることも選択肢の一つだろう。「価値を生み出す具体的な方法を身につけたい」なら、データサイエンスやAI、動画制作など、現代の問題解決で重視されているスキルを習得するのも一つの手。大切なのは、自分軸で考え、決めることだ。 また、平野氏は、何を学ぶかということと同時に、どこでどのように学ぶかが若者にとっては重要だと言う。 「極論を言えば、日本は、ここ20〜30年、失敗しない人が出世してきた時代でした。しかし、これからは、失敗を恐れず、失敗を糧に変化する人が成功すると私は考えています。ですから、若い人たちは小さくて構わないので失敗できる機会を普段からたくさん設けることが大切だと思います。自分が安心できる場所を飛び出してチャレンジしてほしい。大人にとってはそれが副業だったりするんですが、大学生にはもっと多様な機会がありますよね。アルバイトやインターンシップ、さらに大学によっては起業サークルなどもあります。チャレンジというと身構える人も多いかもしれませんが、小さなことで構わないので身近な行動を変えることから始めてみましょう」 平野氏は、高校生に向けてこうメッセージを贈る。図4「会社軸」から「自分軸」へ務でより多くの人に意識変容が起こったことにより、独立という選択肢は特別なものではなくなりつつある。 「アントレの会員(独立を志向している人)への調査では、数年後の独立を目指して副業を開始しているという人も増えています。もはや“雇われる”か“脱サラ”かという対立軸で考えるのではなく、“雇われつつ副業する”ということも当たり前の選択肢になっています。つまり、一つの会社に縛られるのではなく、自分の裁量で仕事、収入源を増やしていこうとする人たちが増えているんですね。その先の独立もより身近なものになってきています」 コロナ禍で働く人たちの間に起こった意識変容を改めて整理したのが図3だ。まず、コロナ禍という外的要因による強制的な変化が起き、収入をどうやって確保するかといったことを自分で考えざるを得なくなった。それは同時に、「自分はどう働くか、どう生きていくか」を見つめ直す機会ともなり、「この仕事が自分にとってどんな意味をもたらすのか」「自分の仕事を通して誰かの役に立てているのか」という自らへの問いにつながっていったという流れだ。 「まだ将来自分がやりたいことが決まっていないという高校生は多いと思いますが、実は大人も同じなんです。アントレでは50代、60代に向けても独立に関する相談に乗っていますが、キャリアを重ねた大人でも実はそこはじっくり考えてこなかった。その意味でコロナ禍は大きなきっかけとなりましたね」会社軸自分軸
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