北アフリカ・モロッコで生まれ、19歳のときに日本に留学しました。土地や資源も少ないのに、経済大国の日本。芸者や侍、忍者といった伝統的な文化がある一方で、東京などの都市は現代的で洗練されているのに興味をもちました。留学して最初の1年は大阪で日本語や日本文化を学び、その後、神戸大学工学部に入学しました。留学生の私に話しかけてくれる人はほとんどおらず、同じ学部の女性たちに「友達になりませんか」と手紙を書いていったのを覚えています。もともと学んでいた英語も使いながら交流し、仲良くなりました。日本語は難しいです。単語の意味がわかっても、その時々の雰囲気や行間で、意味が変わる。例えば笑顔で手を振って「いいです」と言った場合、「いい」だから「OK」と思ったら、実際には真逆の「要らない」という意味だった、といったことも。だから、ひたすら周りの人を観察する日々でした。大学で仲良くなったグループの1人に、有馬温泉最古の温泉旅館に生まれた金井一篤さんがいて、大学1年のときにみんなで有馬のお祭りに行きました。歴史の深い街ですが、有馬は街の人たちがフラットで、「日本の魅力はこういうもの」「外国人はこれが好き」と一括りにしないことに魅力を感じたのを覚えています。のちに一篤さんと結婚。東京の企業で働いた後、フランスの大学でMBA資格を得て、有馬温泉で働くようになりました。東京の企業に勤めたときも、有馬温泉で義父の通訳をしたときも、私は歯がゆさを感じていました。「外」から来た私には、長く同じ場所にいる人とは異なる視点から、そこにあるものの良さが見えることがあります。それで何かアイデアを思いついても、日本語が上手ではないので伝えられないのです。「せっかく私の中に生まれて、外に出ていこうとしているのに、言葉のせいで私の中に閉じ込めてしまうのはアイデアに申し訳ない」。そんな葛藤がある日爆発し、積極的に相手に喋るように。すると、言葉は拙くても思いは伝わったのです。大事なのはメッセージなのだと感じました。幼少期に習得した言語を通じて、自分の国や文化の中で「私」というものを捉えていたけれど、英語を学ぶことによって自由を獲得し、自分の意見を主張するようになりました。そして日本語を通じて、相手を敬う姿勢や、はっきり表に出ない感情を読み取ろうとする思いやりを知った。言語を学ぶとは、自分のアイデンティティを拡張すること。「これが私」と思っていたものが、別の価値観や文化と巡り合ってどんどん広がっていく。他の言葉を獲得する道のりは、同時に「私」を知る旅だったのでしょう。「いいです」は「要らないです」?伝えたいことがあるのに我慢しては「申し訳ない」モロッコから有馬へ。それは言葉を通じて「私」を知る旅 海外に向けて、有馬の歴史や文化を発信することも。写真は2016年、イタリアで行われたスローフードの世界大会での様子(本人提供)。つながるための「言葉」を獲得する1999年に来日。スキンケアの海外戦略、商品企画等を経て、2011年に有馬温泉最古の宿、御所坊のブランドマネージャー兼若女将に。現在は系列旅館の御所別墅でブランドディレクター兼女将を担う。「芸者とTOKYO」日本の魅力や不思議に惹かれて、19歳で留学。有馬温泉 御所別墅正確さより、アイデアを伝えたい気持ちを優先したら伝わるように。言語を通じてその国の文化に触れ、新たな自分らしさを獲得する。ブランドディレクター金井良■■■宮さん#学びのキッカケ#変化・気づき#楽しさ・喜び
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