キャリアガイダンスVol.447
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学生時代、ムベンベという幻の怪獣を探しにコンゴの奥地の村に滞在しました。その時です。私の中で〝語学ビックバン〟というべき現象が起きたのは。今でこそ「学んだ言語は25以上!辺境ノンフィクション作家の超ド級語学体験記」と帯で謳われた書籍『語学の天才まで1億光年』を出版するほどの言語マニアの私ですが、中高時代の英語は他教科同様、義務的に学習していただけ。ただ、雑誌『ムー』を愛読し、世界中を探検するという目標がありましたから、語学の必要性は感じていました。念願叶って大学の探検部に所属したものの、私には特技や経験が何もありません。せめて片言の外国語くらいは話そうと思いました。そのためコンゴ遠征の際は、公用語の仏語に加え、現地で使われるリンガラ語を習得して臨みました。すると、現地の人たちに思いのほかウケたんです。それまで各地で、英語や仏語を話しても反応は薄かったのに、そこでは簡単な会話をしただけで目を輝かせてもらえることに、感じたことのない快感を覚えました。そして確信します。言語には、「情報を伝えるための言語」と「親しくなるための言語」の二種類があると。この二つが備われば最強です。語学の二刀流を使いこなす喜びを知り、私の言語宇宙は一気に膨張することになりました。世界中どこに行くにしても、現地の言葉をゼロから学ぶ習慣がついたのです。私のこの体験を基に、「将来、       外国で仕事をする際は、英語だけではなく現地語を学ぶといいですよ」と勧めるのは簡単ですが、英語を学ぶだけで精いっぱいの高校生には荷が重いかもしれません。なので、こう考えてみてください。一つの言語の中にも、先ほどの二つの側面があると。例えば、機械翻訳の精度がいくら高まってもAIでできるのは「情報を伝えるための言語」の役割まで。通訳を通じた会話にも似て、デジタルを介したところで、相手と心が通じ合うまではいかないでしょう。わかりやすい例がシリコンバレーです。なぜ多くのスタートアップがわざわざ集うのか。ICTのエキスパートなんだから場所を選ばずともいいじゃないですか。そうしないのは、同じ空間を共有し、無駄話や軽口など、どうでもいいことを話すことで関係性を築いているからだと思うんです。その際、共通語として使われることが多いのが英語であり、だからこそAI時代においても英語を学ぶ意味はなくならないと思います。語学ビックバンに先立ち、私の語学観を変える、ちょっとした出来事がありました。自動車教習所の講義で教官がこう話してくノンフィクション作家高野秀行さん言語の二刀流に目覚めた私の〝語学ビッグバン〟語学力の半分は相手に委ねられている情報を伝えるための言語と親しくなるための言語取材・文/堀水潤一 撮影/吉永智彦(24ページ)たかの・ひでゆき●1966年生まれ。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)で作家デビュー。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。タイ国立チェンマイ大学日本語科、上智大学外国語学部での講師経験も。『謎の独立国家ソマリランド』(集英社文庫)で講談社ノンフィクション賞受賞。7月に新刊『イラク水滸伝』(文藝春秋)を出版。2023 JUL. Vol.44724

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