れたんです。「皆さん、路上での運転が不安だと思いますが、大丈夫です。他のドライバーは皆さんより上手ですから、ぶつかりそうになったらよけてくれます」と。心が軽くなったとともに、外国語の会話も同じだと感じました。コミュニケーションは共同作業。こちらがたどたどしくても、相手がうまければきっと助けてくれる。そうでないと会話が成立せず、向こうも困りますから。英会話講師を長く勤める知り合いのアメリカ人は、「ほとんどの日本人と英語で会話できる」と自慢げに話していました。相手の英語が下手でも、こちらがスピードを緩めたり、言い回しを変えたりすることで会話が成り立つと言うのです。ということは、そのアメリカ人ががんばることで、ほとんどの日本人は英語を話せることになるじゃないですか。では語学力って何なのか、という話になりますよね。個人の中にある〝絶対的語学力〟は、せいぜい半分ぐらいで、残りは、相手側にも左右される相対的なものだと思っています。そういう私も、ネイティブの話す英語は聞き取れないことが多いんです。けれど、非ネイティブの話す英語に問題を感じたことはあまりありません。同様のことを語る非ネイティブは大勢います。知人の作家に聞いた話ですが、約40カ国の文学者がアメリカの地方に集まり、数カ月共同で創作活動をしたそうです。全員が非ネイティブで共通語は英語。それで問題なかったのに、たまに現地のアメリカ人と交流するとき、その人の話す英語がみんなよく理解できなかったとか。非ネイティブ同士は意思疎通できるのに、ネイティブとだけはできない。こうなると、ますます語学力ってなんだと思ってしまいます。ちなみに、現在、英語を話す人は世界に15億人以上いて、その4分の3くらいは非ネイティブだそうです。となると、英語には2種類あるんじゃないか。インド人や中国人ほか、世界中の人が話す英語が数の上では〝グローバル英語〟であり、英米人やオーストラリア人が話す英語は、むしろ〝ローカル英語〟ではないかと。そう考えると、私たち日本人は、ネイティブの英語にこだわる理由がないと思うんです。友人のインド人やシンガポール人がよく「日本人はなぜアメリカ人やイギリス人の英語講師にこだわるのか」とこぼしていますが、他の言語はともかく、英語に関しては非ネイティブに習ってもいいと思います。話を戻します。「親しくなる」 という点でも、実用的という点でも、語学を学ぶ際、私が最も重要だと考えているのは固有名詞です。知らない土地に行って何が問題になるかというと地名や人名、店名や食べ物の名前だと思うんです。有名な例だとマクドナルドの発音ですよね。誰もが知る店なのに、音が拾えないばかりに、何を話してるのか理解できない。逆に言えば、相手がマクドナルドの話をしているとわかれば、大体の内容は理解できるものです。また、東京駅構内で外国人が「オーサカ、オーサカ」と困り顔で話していたら、99%「大阪行きの新幹線に乗りたい」と訴えているわけです。伝えたいことの核心さえ通じれば何とかなる。そのためには、まず世界的に有名な場所や人やメーカー、食品の発音練習をすべきでしょう。大切なのは、伝えたいことがあるかどうか。その意味で、語学で大切なのは、何のために学ぶのかというモチベーションです。私の場合、「コンゴで幻の怪獣を探すため」とか「ソマリアの海賊の実ネイティブと非ネイティブ、グローバル英語を話すのは?大切なのは伝わること。だから固有名詞が大事モチベーションを促す〝妄想語学〟のすすめ25つながるための「言葉」を獲得するリンガラ語 (コンゴ)ワ語 (ミャンマー・ワ州)ソマリ語 (ソマリア)高野さんの印象に残る言語撮影/伊豆倉守一2023 JUL. Vol.447高野さん自作の14ページからなる『突撃リンガラ語入門』。読み返すと今も30年以上前の記憶が蘇るとか。滞在先では、さらに、村の言葉であるボミタバ語まで学習。「国家」の支配下に置かれたことのない不思議の地、ミャンマーのワ州。そこで話される言葉を、中国出身のワ人の牧師にタイ語で習っていた際の自作ノート。最も難しかった言語は、アフリカ東部で話されるソマリ語とのこと。助詞が動詞に付く変わった文法に苦戦。写真は"海賊の首都"と呼ばれるボサソで護衛兵士と。
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