キャリアガイダンスVol.447
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片言の英語で心が震える。たまたま居合わせた人と笑い合う。そのとき言葉は、生きている作家・エッセイスト東3通じ合うとき岡田光世日本大震災の翌年、ニューヨーク市セントラルパークのベンチで、高齢の男性に話しかけられました。おそらくヒスパニック系のその男性は「僕はまともに英語が話せないんだ」と謝ったあと、片言の英語で話し始めました。 「Japon, before Tsunami give money many many country.」 ジャポン(日本) ツナミの前 あげる お金 たくさん たくさんの国…。単語を並べただけの英語。時制もめちゃくちゃです。それでも彼はひと言ひと言、丁寧に発しました。 ジャポン 政府 とてもいい  ツナミのあと わからない ジャポン ジャポン ジャポン…… ジャポン また上がる ジャポン 必死に 働く この瞬間を思い出すたび、私は涙がこぼれそうになります。言葉とは「言語」に限らないのだと。真っ直ぐな眼差し、身振り手振り、真剣な表情…彼のすべてが私に、日本を思う気持ちを伝えていた。もし彼が翻訳機を使って正確な英語に変換していたとしても、ここまで私の胸には響かなかったでしょう。 日本人が自分の英語に自信をなくす、よくあるパターンが「声が小さくて相手が聞き取れない」「正しい英語を話さなければと気にしすぎて伝わらない」。でも、英語を母語とする人は、世界の全人口の5%ほどしかいないのです。だから“正しい英語”を話すことより、相手に伝えたいという思いが大切。あれこれ考えすぎて、自分の言葉で話しかける喜びを逃すほうがもったいないです。 先日も日本のお蕎麦屋さんで、ドイツ人の観光客と一緒になりました。日本語を話せない様子で、蕎麦とコーラを頼んでいたので「日本でコーラと蕎麦を一緒に頼む人はあまりいないのよ、子どもくらいかな」と冗談まじりに英語で話しかけると、彼らは大笑いして「僕らは今日、日本に初めて来た“子ども”だからちょうどいいんだ」とジョークを言いました。そして「話しかけてくれてありがとう」と嬉しそうでした。たとえ「ウェルカム トゥ ジャパン!」と声をかけるだけでも、彼らは同じように喜んだでしょうね。 正しい英語でなくても、“あなたの英語”だから価値がある。先生方も「昨日、コンビニで働く外国人に話しかけてみたら…」などと、ご自身が誰かと心を通わせようとした体験を、生徒さんにお話ししてみてはいかがでしょうか。生活のなかで、言葉は息をしている。知りたい、伝えたいと思うとき、言葉が動き出す。「言葉は、生きている」。英単語のつづりや文法を超えて、その言葉の“息づかい”を、生徒さんたちにも感じてほしいですね。今号のオープニングメッセージ取材・文/塚田智恵美 撮影/吉永智彦おかだ・みつよ●読売新聞アメリカ現地紙記者を経て、現職。高校、大学、、大学院で各々米国へ留学。1985年からニューヨークに住む。現在は、東東東京とニューヨークを行き来しながら執筆を続ける。著書に、『ニューヨークのとととけない魔法』をはじめとする「ニューヨークの魔法」シリーズ(全9冊、文春文文文庫)などがある。近著に『ニューヨークが教えてくれた“私だけ”の英語 “あああなたの英語”だから、価値がある』。2023 JUL. Vol.447ニューヨークが教えてくれた“私だけ”の英語“あなたの英語”だから、価値がある(CCCメディアハウス)

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