三川先ほど増本先生に「後悔があるのか」増本三川増本三川と伺ったら、ないとおっしゃった。増本先生はやれるだけのことをやりきったからこそ、後悔という形では残っていないのですよね。そうですね。自分の言葉が生徒の人生を誘導してしまうのでは、と毎回悩みの連続ですが、だからといって何も言わずに見ているのは違うと考えています。お話を伺いながら、私は、増本先生が葛藤を抱えながらも真摯に生徒と向き合っていらっしゃるのが、素晴らしいと思いました。やりたいことがない生徒に対して不安を抱くのは当然のことです。でも、自分が不安だからといって「早くやりたいことを考えなさい」と生徒を急かすと、生徒の選択の幅を狭めることになりますよね。私もそう思うのですが…。ちなみに三川先生は「やりたいことがない」と語る、あの生徒のことをどうお考えになりますか。やりたいことはない、と言っているのは、学びたい分野や進学したい大学名が思い浮かばない、ということでしょう。大学には行きたいのだから「大学生活を過ごしてみたい」という意志はある。増本先生がお感じに なったように、ご両親の影響が大きくて、まだ自分の興味に気づいていないのかもしれませんね。でも、大学に行けば何かが見つかるだろうと期待している。「学びたいこと」が明確でなければ、進学してはいけない、というわけではないはず。増本先生がおっしゃったとおり、途中で変わることもあるのですから。私に意見を求められなくても、増本先生が既にご自身で、答えをもっておられるように思われました。…今日、三川先生と対話しながら「私の今のやり方でも、良いのかな」と少し思えてきました。(気づき③ ▼)そうおっしゃっていただけて嬉しいです。指導した生徒さんに対して、先生はさまざまな心配を抱くもの。その都度、ご自身の関わり方を「これで良かったのだろうな」と振り返りながら、また次の生徒へと向き合っていくことが大切です。送り出した生徒の「その後」を知っておくことは、振り返りのヒントにはなるでしょう。でも、いくら知っても、それで本当に良かったのかはわからない。最後は「きっとあの生徒なら大丈夫だろう」と祈るような気持ちが、先生のこれからを支えていくのではないでしょうか。アドバイスするよりも、悩みながら生徒と一緒に考えることが、何よりの生徒さんへのメッセージになっているはずですよ。もっと良い指導、良いアドバイスがあったのでは、と悩んでいましたが、三川先生に問われて、今の自分の関わり方に問題があるわけではない、と自然と思えました。「マイナスな経験というものはない。すべてが今につながっている」と自分自身が考えていることにも気づきました。対話を始める前は「やりたいことがない」生徒について、三川先生のお考えをお聞きしようと思っていたのですが、気づいたらほかの生徒たちのことまで話していました。たとえ「やりたいことがある」と明確に語った生徒であっても、それが直線的に職業に結びつくとは限らなかった。進路指導を行うということは、あらゆる場面で「あの指導で良かったのかな」と感じてしまうものだなと振り返りました。また、「あれで良かったのかな」とは思いつつも、生徒と深く関わらない、という選択肢は私にはないこと、悩みながらも「きっとあの生徒なら大丈夫」と信じる気持ちがあることにも気づきました。どひとつもないのだと、心底感じられるようになってきました。進路選択も同じで、むしろ目的に向かって一直線であることよりも、目的のはっきりしない余白の時間をどのように過ごすのかが、人生を送るうえでは大切なのかなとも思います。これからも葛藤は尽きないのでしょうが、悩みながらも生徒と向き合っていきたいです。増本三川三川先生との対話を終えて現場の先生が振り返る一緒に悩むことが何よりのメッセージに気づき③ 近年は総合型選抜など、入試の形が変化しています。志望理由書を書き上げるために、早く生徒に「やりたいこと」を見つけさせなければ、と先生方も焦る場面が多いのではないでしょうか。しかし、高校時点で無理やり「やりたいこと」を確定させるのではなく、悩みながらも「やりたいことがない」生徒を受け入れ、現実的な選択肢を模索する増本先生のお話からは、学ぶことが多かったです。「高校時点で392023 JUL. Vol.44750代を迎えて、人生にムダな経験な本連載で三川先生と対話してくださる先生を編集協力委員の中から募集しております。ぜひ、編集協力委員にご登録ください。詳細は66ページをご覧ください。人生は決まらない。この先、生徒が自分の力で人生を切り拓いていくだろう」といった生徒への信頼の気持ちが伝わってきました。それはきっと、普段から生徒と深い関わり合いをされてきたからでしょう。事例を振り返るとき、つい「もっと良い指導ができたのでは」「改善点を探そう」といった姿勢になりがちですが、できている点、良い点を言葉にし、問題がないことを確認しながら「きっとこれで良かったんだ」と自分自身を振り返ることも大切です。ぜひ、ご自身の良かったことも振り返ってみてください。それは悩み、ゆらぎながらも、生徒と向き合っていくことへの自信へとつながっていくはずです。
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