食業界を取り巻く環境は変化を続けています。西欧の模倣から始まった調理技術はそれを凌駕し、世界から高く評価されています。技術を磨き、より良いものをつくろうとする料理人の努力には頭が下がります。ただ、そこで満足してはいないでしょうか。社会全体にイノベーションが求められる時代、飲食業界においても、独自の哲学をもった料理や、新たなビジネスモデルの構築が期待されています。飛行機に乗ってまで足を運びたくなる唯一無二の飲食店や、6次産業化でコミュニティを再生した例など、地方を中心に各地で、その兆しが出ていることに期待する一方、そうした成功例はまだまだ少ないと感じます。同様に、企業にも社会貢献が求められる時代において、真の意味で持続可能な業界になる努力をしてきたと言えるでしょうか。環境問題をはじめとする社会課題は地域により異なり、独自の向き合い方があるはずなのに、海外発のムーブメントに乗っかった形だけのものにしては意味を成しません。そうした危機感の下、私は若い料理人に期待します。業界の構造に生じた軋みを認識し、課題感をもったうえで、新しい食のモデルを構築するなどイノベーションを起こしてほしいし、その結果として社会課題をも解決してほしい。さらには、社会に対して問題提議をし、自身の料理哲学を世界に発信できるような教養ある料理人になってもらいたいのです。そのためには、科学的エビデンスに基づく料理理論や、最新のテクノロジーを駆使した調理技術はもちろん、芸術的素養や感性に加え、それらを数値化・可視化し、マネジメントする能力も欠かせません。料理を教える本校が、STEAM教育を積極的に取り入れようとしているのはそのためです。そして、その教育手法を最大限活かすことのできる場が、2024年4月開校予定の「辻 調理師専門学校東京」(認可申請中)だと考えています。特筆すべきは、キャンパスが、国立大学法人東京学芸大学(東京都小金井市)の構内に置かれること。師範学校を母体とする「教育」の大学だけに、本校の「技術教育」は新たな研究対象となるはずですし、研究成果がすぐに学生に還元されることを期待しています。大学との連携に加え、学校法人辻料理学館として、これまで別々の学校で教えていた調理と製菓を統合するうえ、各学科のカリキュラムを連携させるなど、総合的・学際的な教育を進めることで学生の視野は広がるでしょう。また、小金井市は、農業が盛んな地域。「食と環境」を掲げていることからも地域との連携に期待します。これからの時代、イノベーションが 飲 求められると述べましたが、料理に携わる者の第一の使命は、あくまでおいしいものを提供することです。それによって人を感動させ、幸せにするという、職業の本質が変わるはずもありません。だからこそ、卒業生に「やっぱり魅力的でやりがいのある仕事だった」と実感してもらえる業界にしなければ、と責任の重さも感じています。47理事長、校長プロフィール つじ・よしき●1964年生まれ。1993年辻 調理師専門学校校長に就任。2000年九州・沖縄サミットでは首脳晩餐会の料理監修を、2019年G20大阪サミットでは首脳夕食会のエグゼクティヴプロデューサーを務める。農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」の審査委員や国内外での講演などさまざまな形で食文化の発展に貢献。2018年フランス国家功労勲章を受章。専門学校プロフィール1960年、大阪市阿倍野区に辻 調理師学校(現 辻 調理師専門学校)創設。2024年4月、東京都小金井市に新しく調理師養成施設・製菓衛生師養成施設「辻 調理師専門学校 東京」を開校予定(認可申請中)。2023 JUL. Vol.447まとめ/堀水潤一 撮影/山田紗基子
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