キャリアガイダンスVol.447
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l-は桃色の液体のままで「ツートンカラー」になった。予想で選ぶ四択に「桃色」「青色」があったので、大半の生徒はどちらかになると考えていたが、2本の試験管はどちらも「その他」の変化に。予想外の結果にある生徒は思わず「えっぐい!」と叫び、でもその状況を楽しんでいた。三つ目の実験は、塩化銅を使った錯イオンの生成。①2本の試験管に塩化銅を入れ、②片方はわずかな水を、③片方はこれまでと同じ分量の水を加える。前者は緑色に、後者は青色になった。その結果を考察し、「銅イオンにCちらが配位したかの違いだ」と学んだ。実はこの三つ目の実験は、一つ目の実験の前半と重なっている。だから最初の実験のときに「塩化銅に少しずつ水を加える」と「緑→青に変わる」ことに気づいた生徒もいた。しかし多くの生徒は、その時点では「同じ液体でも〝量〟によって反応が変わる」という発想がなく、そのとH変化を見過ごした。「みているようで、みていない」ことをまさに体感したのだ。「授業で身につけてほしいものは二つあります。一つは暮らしに役立つ化学の教養。知識があれば、アルミニウム容器にアルカリ性洗剤を入れて爆発させるような危険を防げます。もう一つは、主体性、観察力、分析力などの非認知スキルです。既知のことならAIのほうが詳しい時代。社会で活躍するには、『未知のことに遭遇したときに、自ら課題を発見し、探究していく力』が必要だと思うのです」Oのどりで、起きた現象や、そのなかで考えたことや感じたことを、生徒おのおのが「記録」することも大事にしている。授業では、実験中および最後の振り返その意図は複数ある。一つは、記録を残しておくと、自分の見識がより深まったときに、その記録から、実験当時はまだ意識していなかった部分で新たな発見を得られるからだ。「例えば塩化コバルトを使った実験は、化学平衡の概念を学んでから見返すと、『あのときのあれはこういうことか』とまた別の気づきが生まれます。その点では、僕はさまざまな実験で『同じ物質を使い回す』のが好きなんですよ。同じ物質でまた別の実験を行い、以前と似た現象が起きたときや、異なる現象が起きたとき、それはなぜかを考えると、発想が広がり、ものごとへの理解も深まるからです」記録を取りながら振り返ることで、知識の定着と活用、自分を俯瞰して捉えるメタ認知能力の向上も目指している。図1は、今回の授業の振り返りの設問だ。「ガニエの『9教授事象』の保持と転移、ピーター・センゲの『学習する組織』や、それに基づく熊平美香さんの『認知の4点セット』を意識しています。自ら考えて学んだことを確認し、学びにつながった経験を紐づけ、芽生えた感情も振り返り、自分の価値観やものの見方も捉えていく。最後に『身の回りへの応用』まで考えるのは、キャリア教育の視点でもあります。化学の知見を生かした人や仕事、実社会への応用にまで目を向けることで、自分の進路や興味につながるものも発見してもらえたら、と思っているのです」目の前の現象をよくみていろいろな角度から考察すると、今までは認識できずにいたことが浮かびあがってくる。そのことを幾重にも体感できる授業だった。化学のことや自分のことを記録も生かして探究する実験に使う器具のセット。実験後の器具の洗浄を含めて、準備から実験、片付けまで、すべてを生徒主体で進めていく。2023 JUL. Vol.447塩化コバルトと水の入った試験管に、アセトンを少しずつ加えた結果。鮮やかな色彩に生徒たちのテンションもあがっていた。生徒同士の話し合い。実験結果を予想し合った。前田先生は巡回しながら、なぜそう考えたのか理由まで引き出していった。INTERVIEW・授業の共創55理科 主任実習教師谷 亜紀子先生 前田先生とは、授業の準備段階として、予備実験を一緒に行っています。この先の授業で行う実験について、私が生徒役となって試してみて、安全面に配慮すべきところや起こりうる問題について、事前に確認するのです。本番の授業では、私も机間支援をして生徒たちが取り組む実験を見守ります。 前田先生の特徴は、色の変化で見せるような「映える実験」が好きなことですね(笑)。どうすれば映える実験になるか、ご自身のもつたくさんのノウハウを基に、いつも真剣に考えていらして、勉強になります。実際、試験管の中にきれいな色が立ち現れたりすると、生徒の反応は全然違うのです。いつもみんなが楽しそうに実験をしている印象があります。 熊本北高校の生徒たちは、自分たちで考えて実験を組み立てるだけの力をもっていますが、強いて課題を挙げれば、失敗を恐れて他の班の出方をうかがってしまう傾向があると感じています。それだけに、まず実験の流れをつかみ、実際に器具を扱うことや片付けまでが「実験」という、一連の活動のなかで「率先してやってみる」という積極性も身につけてほしいところ。前田先生は、生徒たちが自ら踏み出せるように寄り添うことにも長けているので、そうした面でも力を合わせていければと思っています。映える実験を生徒主体で図1 振り返りの設問     2  1 新たな学びはありましたか2 知っていたこととどのように関連していましたか3 今回の実験で最も驚いたことや、次に生かせそうな知識は何ですか4 (今回のような色変化を起こすには)他にどんな方法が考えられますか5 このような色変化を身の回りに応用した例はあるだろうか

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