キャリアガイダンスVol.447
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前田先生は、高校時代に友達に化学を教えて喜ばれたのを機に、教師を志した。それだけに、教科指導に熱い思いをもっていたが、初任校で挫折を味わう。化学に興味のある生徒だけではないなかで、「実験で化学の面白さを伝えれば振り向いてくれるはず」と意気込むも、生徒たちとの距離がなかなか縮まらず、最初はうまくいかなかったのだ。打ちのめされ、でもこのままで終わりたくなかった前田先生は、通常なら異動となる時期に留任を希望し、5年間模索を続けた。生徒との関係づくりを大事にした。外部の研究会に参加し、化学の魅力の伝え方を磨いた。集中しない生徒がいるなかでの化学の実験は、事故が起きるリスクが高まる。しかし、化学の面白さを伝えるのに実験は不可欠と考え、「全員の目で危険予知」をする場づくりをして挑戦した(57ページの授業作りのポイントも参照)。生徒が自分のテーマを探究する「課題研究」に関わったのも初任校からだ。「農業科のある学校だったのですが、農業クラブの大会(※欄外参照)経験者が、私が顧問を務める科学部に入り、自分たちの研究で外の大会に出たいと言ってくれたのです。嬉しくて見よう見まねでサポートし、理科研究の大会を探して出場しました。そうして生徒たちがやりたいことを研究し、発表し、外部の人にも褒められていくと、学習のモチベーションも自己肯定感もぐんと高まったんですよ。探究的な学びが生徒を成長させるのだと実感しました」だから校内で空いていたコマをもらい、理科課題研究という授業も始めた。さらに異動した2校目でも、課題研究に力を入れ、現任校では、同僚の溝上広樹先生と共に、課題研究を全校に広げる立場となった。そうした経験も、授業全般に生きることになった。「生徒が自ら楽しく学ぶにはどうすればいいか、まず実践ベースで経験を積むことができ、学習の理論に詳しい溝上先生とご一緒してからは、自分たちのやりたいことを理論とも照らし合わせ、より明確なねらいをもって行えるようになりました」前田先生と溝上先生には共通点もあった。大学院に通ったときに、仮説を立てて研究するもなかなか結果が出ず、苦悩したこと。しかしある仮説にたどりついたとき、すべてがその方向で説明できそうで、これまでの記録を見返したらそこにも宝の山がうずもれていたことをついに発見する、という体験をしたことだ。「探究するときは、『仮説→実験→検証』の順に進めますが、実際には一直線に進むわけではありません。論文やレポートにするときに、きれいな流れに整えるだけで、道中は行ったり戻ったり、右往左往を繰り返すもの。その模索の積み重ねの中で、あるときに点と点がつながって線となり、何らかの発見が生まれるわけです。生徒にはそのことを、化学の実験や課題研究を通して感じてほしいと思っています。そうすれば、『まずはやってみる』ことの大切さや、『うまくいかなかったときも記録する』ことの重要さが身に染みてわかり、『諦めずに考えてやり抜こう』という意志も育つと思うからです」生徒が学ぶ面白さに目覚め粘り強く考えていけるように※ 農業クラブは、日本学校農業クラブ連盟の略称。  農業を学ぶ高校生が、その活動の成果を発表する場として、全国大会を開催しており、生徒の主体性の発揮を後押ししている。 SSH指定校のⅢ期目に入った本校では、理系クラスで推進してきた課題研究を、全校に広げる――具体的には理数科・英語科・普通科の全科で展開し始めたところです。前田先生とは同じSSH研究部のメンバーとして、普段からその課題研究や授業手法のことを話し合っています。SSH研究室という部屋があり、そこでは席も向かい合わせで、顔を合わせれば立ち話から作戦会議を始め、アイデアを出し合っては壁の模造紙に付箋で貼って、今後の方針や具体策を検討しています。 例えばこれまでに、「課題研究に伴走してきた先生方の暗黙知を可視化し、仕組み化する」ことに取り組んできました。生徒が自分の興味・関心を掘り下げるなかで、自己の在り方・生き方まで考えるような課題研究にしたい。そのためには、そばにいる教員がどういう問いかけや関わり方をすればいいか。生徒支援のあり方をパッケージ化し、全教員と共有したのです(図2参照)。前田先生は、前々から化学の専門性を生かした面白い授業をされていましたが、SSHの取組を通して、授業をさらに磨かれたように感じています。私も担当する生物の授業や、課題研究を通して、生徒の主体性、しなやかな心、創造的思考力を育み、おのおのが自分で未来を切り拓いていくことを後押ししたい、と思っています。前田先生と溝上先生がよくいるSSH研究室の壁面。会議の時間を設けるまでもなく、2人はこの教室で日常的に話し合っているという。生徒の興味・関心や自己の在り方・生き方と課題研究テーマを結び付ける支援法。課題研究に関わる20数名の教員とは、週1回、学び合うための時間も取っている。また、生徒同士でテーマを深める際の問いかけをサポートするために、進路指導用のキャリアカードを応用して使うなど、ツールを活用した支援にも力を入れている。創立1982年/普通科・理数科・英語科生徒数1068人(男子539人/女子529人)進路状況(2023年3月卒業)大学298人、短大6人、専門学校等24人、就職1人など     SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校として、グローバル科学技術人材育成のための課題研究等を推進し、職員研修のメソッドも蓄積。職員研修ハンドブック暫定版については同校のホームページから閲覧できる(2023年7月現在)。2023 JUL. Vol.44756INTERVIEW・教科を越えたつながり探究しながら将来の生き方も考える学びをSSH研究部 部長指導教諭溝上広樹先生熊本北高校(熊本・県立)図2 KUMAKITA TS(テーマ設定)法の過程

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