キャリアガイダンスVol.447
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理科室で班ごとに行う実験は、全部が同じ結果になるとは限らない。今回も、塩化銅を「耳かき1杯程度」試験管に入れるはずが、大量に入れ過ぎ、ほかとは異なる結果になった班があった。過去には、実験器具の洗浄が不十分で物質が混ざり、想定外の結果になった班もあった。前田先生はそうしたイレギュラーもプラスに捉えている。皆でやるからこそ生まれる差異であり、「なぜほかと違ったのか」という新たな問いも生まれるからだ。実際、他班との違いを生んだ原因が「気になる」と記録した生徒がいた。科学的な視点も磨かれる。実験中、目を凝らし、安全に注意してにおいを嗅ぎ、試験管をさわって熱の変化を感じるなど、五感を使って現象と向き合う生徒たち。振り返りでは今後意識したいポイントとして、おのおのが「密度」「溶解度」「濃度」「量」「比重」などを挙げていた。「今はものごとを動画でも学べる時代です。それだけに、仲間と学び合う、五感を使うなど、学校で皆でやることに意義がある学びというのも意識しています」学んだ内容の「身の回りへの応用」まで考えることで、生徒の興味・関心が広がるのもみてとれた。水を吸うと色が変わる除湿シートを思い出し、それを生んだ人の「発想力を見習いたい」という生徒がいた。「自然の中にもこうした色変化はないか」「色が変わるお菓子の原理を知りたい」「工業廃水の分析に使えるかも」といった思いを抱いた生徒もいた。「化学の授業は、全員に専門家になることを求めるものではないと感じています。別の道に進む生徒もいますから。ただ、化学に対して『私にはよくわからないけど、すごいね』と、自分を貶めて考えることをやめるような態度にはなってほしくないんですよ。化学の面白さにふれ、リスペクトできる感覚をもったうえで、自分がより興味をもった分野に向かう。生徒たちが自分を卑下することなく、学ぶことを楽しみながら、将来のことも考えるような授業ができたらと思っています」科学的な視点を磨き自分の興味も広げていく左より、2年生の原田菜那さん、前田永遠さん、古庄琥丈郎さん、岩㟢澪羽さん化学の実験をしたときに、爆発や有毒ガスの発生、薬品の飛散などが起きないよう、安全教育を重視。「配慮に欠けた実験現場」の絵を見ながら何が危険か生徒同士で議論するなど、危険予知の力を高め、全員の目でフォローし合うように努めている。2023 JUL. Vol.447教員同士で化学実験の研究をする「化楽の会」に所属。また、化学分野を中心に教育分野・情報科学分野の専門家が集まったプロジェクト「EGCs」にも参加し、化学ゲームの開発にも従事。化学の楽しさを届ける手法について、研究を続けている。実験では、目をひく「映える」ものを志向。授業展開では、生徒の思い込みやメンタルモデルを「ひっくり返す」ことを目指している。心を動かすARCSモデル(※)に通じる手法で、Attention(注意)を喚起し、好奇心をまず呼び覚ますのだ。※ ARCSモデルはジョン・ケラーが提唱した理論。「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」 「自信(Confi dence)」「満足感(Satisfaction)」の4つの側面から学習者にアプローチする。    実験では、計測データから考えたことや感じたことまで、生徒が記録を取ることも重視。以降の実験でも同じ物質を使うなど関連性をもたせ、知識や経験が増えるほど、記録したことからまた新たな気づきを得て、学びが深まるようにしている。生徒INTERVIEW57全員の目で危険予知予想や仮説を立ててものごとを意識的にみるという、科学的な視点を磨いてほしいと思っています。探究的な学びでは、記録を見返すとまた発見があることを知り、粘り強く考える姿勢も育んでほしいです。未知のことに遭遇しても、科学的な視点や考える力を基に、自ら道を切り拓いていくことを願っています。多様な人と「化楽」研究ひっくり返す映える記録が生きる学び自分たちで考えながら前に進んでいく楽しさを知った――前田先生の授業で印象的だったことを教えていただけますか。古庄さん 金属ナトリウムを水に入れる実験です。先生が安全にできるよう工夫してくれて、高温になって燃え上がる危険な実験を、班ごとに自分たちでやることができました。とても楽しかったです。岩㟢さん ほかにも実験をたくさんさせてもらい、化学記号を組み合わせて遊ぶゲームもやりました。自分たちでやってみたことから考えて学ぶことが多いので、すごく頭に入りやすいです。原田さん 1年生から続く課題研究の授業も楽しいです。理数系の研究をする私たちを前田先生がみてくださったのですが、生徒目線で一緒に考えてくれるし、お決まりのかけ声もできたんですよ(笑)。――かけ声というのはどういうものですか?前田さん 「論理とロマン、動と静、コンピテンシー、からのエージェンシー!」です。冷静な分析と感動する心、活発に交流するときと静かに考察するとき、どちらも大事だよね、というのと…。古庄さん テストの点数には表れない、主体性や協調性、課題を発見して遂行する力も伸ばそうという意味です。僕自身、先生の授業のおかげで、とことんやってみる力がついたように感じています。前田さん 生徒のことを信頼して、実験とかも「やってみなよ」と任せてくれるので、自分で考えて行動する力も鍛えられました。岩㟢さん 教科書の暗記ではなく、考えたり話し合ったりと過程を大事にして学ぶようになりました。今後もそうしていきたいです。原田さん 大人になってから何かに挑むときも「よく考えればできるかもしれないな」と。そういう自信がついたように思います。

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