話しながら出てきたものを手に取り、「自分の中の言葉」を見つけに行く私たちが「言葉にすること」をあきらめない理由えいく作業でもあります。私にとって何かについて考えることは日常化していて、「書く」ことで言葉を吐き出し、頭の中を整理整頓してきました。一方、書くのは難しいという人もいます。そういう声を聞いて、「話す」でもいいよね、「聞く人」がいたら話せるよね、じゃあ私が聞く人になろう…と始めたのが「マンツーマン雑談」です。雑談をするとき、相手には好きな 考ように話してもらいます。過去のエピソードでもとりとめのない話でもなんでも、とにかくワーっと出してもらいます。私は、質問などはしますが、ジャッジやアドバイスはしません。そして、出てきたものを一緒に見ていきます。これとこれは似てるね、矛盾してるね…などと分類しつつ整理していくと、相手には「私ってこんなこと考えていたんだ」という気づきがあります。言葉を口に出してみて初めて、自分の中にぼんやりとあったもののかたちが見えてくるのです。出した言葉が「なんか違う」というときもあります。そんなときも、雑談をしながらポロポロと出てきた言葉から、しっくりとくる言葉を一緒に探していきます。大事なのが、自分の中から言葉を取り出すこと。借り物の言葉は薄っぺらいですし、実態と言葉との間にズレがあることは、危ういことでもあります。言葉の力は強く、私たちの思考や言動は、時に言葉に引っ張られてしまうことがあるからです。例えば、「私は〜になりたい」と安易に言葉にしたがために、本心はそうではないのに、それが自分の本意のように思えることがあります。学校や社会では、どう評価されるかを気にしたり、無意識のうちに相手の望みを汲み取って、「自分が言いたいこと」ではなく「相手が自分に言ってほしいこと」を言ったりしがちです。自分の言葉が本当に自分の中から出てきたものかに意識を向け、ぜひ、肩肘張らずにできる雑談を通して、自分の中の言葉を探してみてほしいと思います。雑談の人桜林直子さん言葉は、かたちのないものに意味を与えます。それを誰かに届ける手段にもなります。「言葉にすること」を大切にしてきた4組の方々に、言葉に寄せる思いを聞きました。るという行為は、言葉があってこそできることであり、 自分の中に言葉を見つけて取材・文/笹原風花 撮影/平山 諭(10、12ページ)、竹田宗司(11ページ)、江口 薫(13ページ)さくらばやし・なおこ●洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し、クッキー屋「SAC about cookies」を開店。noteで発表したエッセイが注目を集め、活動の幅を広げる。マンツーマン雑談「サクちゃん聞いて」では、累計1500回以上の雑談をしている。ジェーン・スーさんとのTBS Podcast番組『となりの雑談』も好評配信中。著書に『世界は夢組と叶え組でできている』(ダイヤモンド社)ほか。2023 OCT. Vol.44810
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