が芸能人の俳句をバシバシと添削するところに面白みがありますが、番組の開始当初は、芸能人の才能アリ・ナシのランキングショーにもっと重きを置いていました。その後気づいたのが、視聴者が見たいのは添削前後のギャップだということ。そこで浮かんだのが、「知のビフォア・アフター」という言葉でした。これが『プレバト!!』のコアアイデアが言語化できた瞬間で、企画選定の基準になりました。番組の総合演出を担当する私は、どんな番組を作りたいのかをスタッフたちに向けてシンプルな言葉で提示しなければなりません。明確な言葉を手に入れたことで、番組の方向性が定まり、視聴率1位をキープし続けられるようになりました。一方で、言葉には限界もあります。 言00まで完璧に相手に伝えることも不私は普段から「言葉ではすべては伝わらない」という前提でコミュニケーションを取っています。伝えたいイメージを100%言語化することも、1から1可能で、「正確に伝わっている」というのは思い込みであり、ある意味で傲慢だと思うんです。言葉では100%伝わらないという前提に立ったとき、目指すといいのが「ほぼ共感」です。映像葉には、未来を拓く力があります。例えば、『プレバト!!』は、夏井いつき先生あ■る■あ■る■を交えて伝えれば、互いがイが脳内で再生されるような具体例やメージしている情景が完全には一致せずとも、相手の認識はほぼ許容範囲内に収まることが多いんです。特に言語化しづらいニュアンス論が飛び交う制作現場では、「ほぼ共感」を心がけたほうが話し合いやコミュニケーションがスムーズに進みます。「ほぼ共感」の力を実感したのも、『プレバト!!』で俳句に出会ってからです。たった十七音しかない俳句では、楽しい、悲しいといった感情を言葉にせず、美辞麗句も使わない。情景描写に徹します。具体的にイメージできる映像と季語を取り合わせることで、読み手の五感や過去の思い出を刺激して、4Kテレビをも凌駕する情景を伝えるのです。十七音でも情景を伝えられるのですから、普段の対話や文章ならきっと可能なはずですよね。そもそも言葉にすることに正解はないはず。完璧を目指しすぎず、「相手とイメージを擦り合わせていこう」程度の気持ちで臨むことが大切だと思っています。研ぎ澄ませば思考に軸ができるし、新たなものも生み出せる。でも、すべてを表現できるわけではない。この言葉の強さともろさを認識することで、言葉とうまく向き合えるのではないでしょうか。株式会社毎日放送東京制作部スペシャルエキスパート(部長職)水野雅之さんみずの・まさゆき●愛知県春日井市出身。慶應義塾大学商学部卒業後、2000年に毎日放送に入社。現在は、『プレバト!!』の総合演出を担当し、TBS系ゴールデンタイムの番組を牽引する。他に『初耳学』なども企画・演出・プロデュース。また、近年はYouTubeやTikTokなどテレビ番組以外のシーンでも活動の幅を広げている。「私にしか言えない言葉」番組の収録時は、常にMCの正面に座るという水野さん。「出演者の何気ないひと言を聞き逃すことなく、ライブ感ある演出を心がけています」100%は伝わらないし、正解もない。肩の力を抜いて、自分の言葉で伝えたい
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