キャリアガイダンスVol.448
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れます。人の内面と言葉は表裏一体で、言葉が豊かであれば心の機微を表す術を得られ、考えや気持ちが豊かになります。一方、言葉が貧しければ、思考や感情の幅も狭くなってしまいます。暴力という手段に訴えてしまった人が「むしゃくしゃしてやった」と言うのを聞くと、本当はそのなかに、悲しさ、寂しさ、怒り、憤りなどの感情があったのではと苦しくなります。スピードやコスパ、タイパが重視される現代社会では、キャッチーでインスタントな言葉や表現が飛び交っています。「ヤバい」「ウケる」などなど…パッと聞いてなんとなくわかった気になる言葉、共感できる言葉は、周囲との円滑なコミュニケーションのために必要なこともあるので否定はしません。ただ、後から「あのときのあの言葉は、あれでよかったのかな」と振り返り問い直す機会をもつことが大事だと思っています。広く速く通じる言葉は、いわば誰にでも使える言葉です。「自分じゃない誰かでもいい」という感覚は、自尊感情の低下、さらには生きづらさにもつながります。自分の内面と向き合い、「自分にしか発せない言葉」を絞り出すことは、とてもしんどいこと。それでも、自分のおは言葉を使って思考し、対話をします。発想も感情も、言葉があることで生まなかの底から出てくる言葉をつかんだときの安心感、その言葉を発したときに届くべき人に届いたという喜びを得られることで、自分らしく生きやすくなる。そんなふうに感じています。言葉の豊かさに触れ、自分の血肉と  人なる言葉を見つけ出すために私たちが大切にしているのが、本を読む時間です。映像や音は流れていきますが、本の中の言葉は止まっていて、自分のペースで出会うことができます。読み返したり、気になる箇所に戻ったりするなかで、文脈によって意味が変化する言葉の広がりも感じられます。また、本は「ここではない世界」への窓であり、そういう場所があるという確信は、心の風通しを良くしてくれます。もう一つ、振り返る時間をもつときにおすすめなのが、場所を変えることです。例えば、海や山などの自然の中、人によっては古本屋など、「何かの役に立つか」「周囲からどう見られるか」という視点とは切り離された場所に身を置くことで、自分のあるがままの内面が見えやすくなります。誰かのそんな場所になりたいと、私たちは読んできた本と住んでいる場所を「ルチャ・リブロ」として開いています。ぜひ、言葉の豊かさ、自分らしさを取り戻せるような方法や場所を見つけてください。内面と言葉は表裏一体。自分と向き合い、言葉の豊かさ、自分らしさを、手にしてほしい13あおき・しんぺい・みあこ●2016年に奈良県東吉野村に移住し、自宅の一部を「人文系私設図書館Lucha Libro(ルチャ・リブロ)」として開放する。ネットラジオの配信、講演、執筆などの活動を通して、資本主義社会の抱える諸課題に対して、二項対立ではなく「行き来する」あり方を訴える。著書に『彼岸の図書館―ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『手づくりのアジール 「土着の知」の生まれるところ』(晶文社)など。「私にしか言えない言葉」2023 OCT. Vol.448本との出会いを求める人、青木さん夫妻に会いにくる人など、Lucha Libroを訪れる人の目的はさまざま。トークイベントなども開催しています。人文系私設図書館Lucha Libroキュレーター・司書青木真兵さん  海青子さん

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