キャリアガイダンスVol.448
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昭和女子大学キャリアカレッジ学院長さん熊平美香世界はもっと広がると思います。の影響や、この世代ならではの略語・造語に関する声もありました。それをもって、言語化力が不十分と感じる先生もいるように思います。川合この時期は、仲間とだけ通じ合■世界をつくりたがるため、「親や先生には通じなくていい」と考えているケースも多いでしょう。仲間内で造語が流行ったり、誰かの使った言い回しが伝播していくことから広がる言葉の世界もあります。「ちょうどいい言葉がないから、新しい言葉をつくろう」❸という発言からは、独創性や意志の強さを感じます。なかでも、❹の「笑える」の最上級が「モーリーファンタジー」とは言葉選びの感性が豊かですよね。「日本語の乱れ」と眉を顰める人がいるかもしれないけれど、私はそうは思いません。新しい言葉をつくるということは、モノをしっかり捉えている証拠だと思います。熊平 「SNSでネガティブに受け止められる可能性を考えると、自分の内側で生じた気持ちを言葉にすることをためらってしまう」❺という趣旨の発言がありました。相手が目の前にいれば、表情や声のトーンなどから確認できるけれど、文字だけだと難しい。SNS時代だからこそ、日常生活でのコミュニケーションのレベルを上げ、相手の多様な受け止め方に応じた言葉の使い手になることが求められると思います。「気持ちを言葉にする」という点では、熊平さんはよく、思考の前段として自分の感情を知ることが大切だと主張されています。逆に言えば、言葉を獲得するためには、まずは感情を正しく認識すること、ということでしょうか?熊平その通りです。ですから、「イラッとしたことなどはメモして、あとで気持ちを整理する」❻という発言は素晴らしいと思いました。「感情」と「思考」 ――高校生の発言のなかには、SNS言語化の第一歩は感情を正しく認識すること23※上記の発言はすべて再構成したものです。2023 OCT. Vol.448本当にすごいものを見たとき「すごい」としか表現できないことがある。推しのアイドルについて、どれだけうまい表現や素晴らしい語彙で表現された文章を見ても「そうじゃないんだよなあ」としっくりこない。すごく感動しているときは、今、自分の気持ちを言葉にすると、気持ちが削がれてしまう、と思う瞬間がある。言葉を介さないで伝わってほしいと思ってしまう。あまりに大切で近い存在の人のことは言葉では表せない。ちょうどいい言葉がないから、新しい言葉をつくろうと思うときがある。高校生の言葉で「笑える」の最上級の表現として「大草原」があるが、大草原でも言い表せないくらい笑えることを、友達と「モーリーファンタジー」と名付けた。私たちの間ではすごく使いやすい言葉だけど、ほかの人には伝わらないので、もどかしい。SNSでの誹謗中傷を見ていると、どんな発言も捉え方次第でネガティブに受け取られてしまうと感じる。なので、自分の気持ちを言語化することよりも、言葉にしすぎることに、むしろ気をつけている。感情の言語化が苦手。だから、とりあえず思ったことやイラッとしたことを、メモに記録しておく。あとでそのメモを見ていると、「今日こういうことをされて嫌だと感じた」と気持ちが整理できて、自然と言葉になる。例えば「普通」という言葉の意味はわかるけど、何が「普通」に当たるのか、私には理解ができなかった。それが、小説の中に「いっぱいあるから普通なんだよ」という表現がでてきて、初めて「普通」という言葉の意味が理解できたような気がした。国語の教科書を読んでいたら、何とも言葉にできない不完全燃焼感を「やるせない」と表現していて、ああ、自分のもっていた感情は「やるせない」だったんだ、とつながった経験があった。「私にしか言えない言葉」くまひら・みか●ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、熊平製作所で企業変革に従事。日本マクドナルド創業者に師事したのち独立。学習する組織論に基づくリーダーシップ、組織開発を軸にコンサルティング活動を開始。日本教育大学院大学で教員養成に取り組む傍ら、未来教育会議を立ち上げ教育ビジョンを形成。中央教育審議会委員、経済産業省「未来の教室」委員など役職多数。

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