キャリアガイダンスVol.448
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で伝えるためには、何よりアウトプットの訓練が大切だとも話されています。熊平際に書いてみるのとでは解像度が変わりますし、自分の理解レベルが俯瞰できます。さらに、書いたものを誰かに読んでもらったり、話したりすると反応が返ってくるため、自分の解釈の独自性に気づくこともあります。つまり、言葉によって思考は磨かれるし、対話によって学習と変容は起きるんです。川合自分の言葉をどのように獲得するか、という点では、座談会の高校生の声の中には多くのヒントがあると感じました。例えば、小説や教科書に出てくる表現によって、言葉のもつニュアンスを理解したという発言がいくつかありましたが❼❽、他人が使う表現を借りることで、情景が広がったり、自分の感情と言葉がつながることってあります。それこそ現代文や古文を学ぶ意味でしょう。熊平授業において「主体的・対話的で深い学び」の視点が求められる今だからこそ、考えを伝え合い、驚いたり、不思議に思ったり、いろいろな経験に触れることで、表現する楽しさや、誰かの表現に触れる楽しさを高校生に体験してもらいたいです。最後に改めて「言葉の力を育成すること」や、「思いを言語化すること」はなぜ必要なのでしょうか?川合「言葉」の定義は難しいけれど、敢えて言えば、わかり合える社会のための基本をなすツールだと思います。相手の意見が自分と違っていても、自頭の中で考えているだけと、実けれど残念ながら、日本の教育はこれまでアウトプットを重視してきませんでした。教室における、聞く時間と話す時間の比率を考えれば明らかです。私自身、アウトプットが得意とは言い難かった。けれど社会人になり、場数を踏むことで次第に、伝えたいことを、伝わる言葉にできるようになってきました。もちろん〝言語スマート〟な人ばかりではないため、絵や音楽などで表現するのもありだと思います。―  分の考えは一旦横に置き、相手の話に耳を傾ける。そのうえで非主張的になるのでも、攻撃的になるのでもなく、言いたいことを言いつつ歩み寄る。そのとき役立つのが言葉なんだと思います。熊平同感です。オランダでは「民主的な社会は対立を前提としている」と考えており、幼少期からそれを乗り越えるコミュニケーション教育がなされています。多様な人々が、それぞれ自分らしく生きようとする社会を目指したとき、対立は当然生じます。それでも、同じ方向を向くためには深いレベルで言葉を交わすことが必要です。多様な人たちと「これいいね」「あれもあるかも」と共に考えるなかで、新しい何かが創造されていくでしょう。また、一人ひとりの高校生にとっても、これからの人生は、より多様なものになるはずです。自分で意思決定するべき機会も増えるでしょう。言葉によって思考を磨くことは、納得いく決断をするためのベース。そうした言葉の使い方によって、未来は開かれていくと思います。思考の手前に感情はある。感情の認識こそ言葉獲得の第一歩25「私にしか言えない言葉」2023 OCT. Vol.448ベストセラー、『リフレクション』(15ページ)に続き、熊平さんのライフワークをまとめた実践の書。ダイアローグ(対話)とは、自己を内省し、評価判断を保留にして、他者と共感する聴き方や話し方のこと。その力を育むための実例が満載。※オランダ生まれの幼児向けシチズンシップ教育プログラム。対立を子どもたちの力で解決していく姿勢などを育む。

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