は九州大学理学部2年生の山内涼乃さんは、「記憶の忘却」について探究。主体的に学びを深め、総合型選抜で大学に進学した。「山内さんのように、個人探究と大学で学びたい学問とがリンクする生徒が複数出てきて、下の学年のロールモデルになってくれました。その後は、探究系のコンテストへの応募・入賞者が出るなど、目に見えるかたちで〝成果〟があがっていきました」しかし、すぐに壁に直面した。文理別課題研究が進路につながっていない。個人探究に熱心に取り組んで進路につなげる生徒がいる反面、時間がなく取組が深化しない生徒も一定数いる。コンテストへの応募を推奨するあまり、コンテストでは賞が取れても希望の進路に結びつかないケースが出てきている…。そんな状況に加えて、助成金が終了することも追い打ちをかけた。「高校における探究の〝成果〟ってなんだろうと改めて考えたときに、何より大事なのは、その取組が生徒の進路やキャリアに寄り添うものになったかどうか、だと思ったんです。探究を、生徒たちが本当にやりたいことを深められる機会にすべき。だったら、肝は個人探究だよなと。そう考え、思い切ってカリキュラムを見直すことにしました」こうして、2022年度の1年生から、新しいカリキュラムを始動した。1年半かけていた地域課題探究は1年間に凝縮。授業の進め方も、教員主導のスタイルから、生徒が自分の好きなものについて探究・発表するという生徒主体に改めた。さらに、2年次前期から文理別課題研究をスタート。その内容や進め方を大きく変えた。「従来の文理別課題研究は、地域×理系、地域×文系というざっくりしたグルーピングで、生徒の興味・関心や進路・キャリアとの関連性が希薄でした。それを改め、自分が興味のある分野や学問領域の視点から地域の課題にアプローチをする、というスタンスに切り替えました。例えば文系なら、経済、行政、地方創生など分野ごとに興味・関心の近い生徒同士でグループを組み、地域が抱える課題を洗い出し、解決策を模索します。学びたいことが明確な生徒は意欲的に取り組めますし、まだ学部・学科を絞り込めていない生徒にとっては進路を考えるきっかけになるでしょう。大事なのは、とにかく1回探究のサイクルを回してみること。そこで見えてくることがあるはずです。3年生になって行きたい学部・学科が決まっていない…という事態を避けるためにも有効だと期待しています」新カリキュラムで学ぶ1期生は、現在2年生。佐世保市内を走る松浦鉄道の混雑状況をLNEで配信する、という地域創生グループのプロジェクトなど、「地域×学びたい分野」の探究が進んでいる。前期が終わる10月には、グループごとに1年生に向けて成果発表を行う予定だ。そして、発表終了後は個人探究がスタート。3年次前期まで時間をかけて深めていく計画だ。「地域課題をテーマにした探究に取り組む意義はよく理解できますし、否定する気はまったくありません。一方、それが生徒の進路やキャリアと重ならず〝別物〟になってしまうのであれば、本来の探究の目的からズレてしまうのではないかと思います。地域課題探究を起点に、地域×学びたい分野、自分の興味・関心や学びたいこと…とステップを踏むことで、進路・キャリアに重なり連なっていく。そんな探究を目指し、これからも試行錯誤を続けていきたいと思います」生徒の興味・関心、学びたい学問領域を軸に据えた探究へ 私は遺伝子などに興味があり、九州大学理学部生物学科で学びたいと思っていました。同学科に「記憶の忘却」についての研究室があることを知って興味をもち、個人探究のテーマに選択しました。忘却の仕組みは解明されておらず、調べるうちに次から次へと疑問が湧いてきて…。研究室の先生に自分から連絡し、メールでやり取りをしたり、実際に研究室を見学させてもらったりしました。そして、個人探究に取り組むなかで、大学でもっと詳しく学びたいと思うようになり、総合型選抜で入学しました。個人探究は大学のゼミのような感じで、生物の先生であり担任でもあった植島先生の下、自分の興味・関心事を突き詰める面白さを肌で感じることができました。 I ●資料左:植島先生が作成した、1年生向けの総合的な探究の時間のオリエンテーション用資料。「探究とは何か」や手法について、例を交えてわかりやすく解説されている。●資料右:今年の2年生の文理別課題研究のプレゼンテーション用資料(作成中)。「環境問題(海洋プラスチック問題)×佐世保」について、データを交えながらまとめている。2023 OCT. Vol.44844● 先生によるオリエンテーション資料大学の先生に自らアプローチし、興味のある研究分野を探究九州大学理学部生物学科2年山内涼乃さん● 生徒によるプレゼンテーション資料
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