めて言うまでもなく技術革新のスピードはすさまじく、今の技術が数年後に陳腐化することも珍しくありません。そのため10年先、20年先の社会を見越してカリキュラムに反映させなければいけません。その際欠かせないのが最先端の研究です。研究力に優れた先生ほど、授業力も高いもの。本学は、セラミックス複合材料センターなどの先端的研究で知られますが、それらの知見は教育力にも活かされています。産業界に精通し、未来を見据えた研究を教育に反映する。そして教員と学生が共に成長する。本学は、そういう大学です。サイエンスが「発見」を目指すとすれば、エンジニアリングは「発明」を目指すと言えなくもありません。創立以来、実学主義教育を掲げ、工科系大学としての蓄積がある本学が狙うのは、どちらかといえば後者です。産業界、特にモノづくりの現場との連携を通じた最先端の技術的発明や、そこで生じた新たな課題を出発点に、今度は、最先端のサイエンスとして研究が進められていく。そのように発見と発明を繰り返すのが科学技術の歴史です。つまり理学と工学は一体的なものだし、基礎と応用もそう。わかりやすく分けているだけで、世の中の多くのことは混然としているものです。冒頭述べたように、良い研究が良い教育につながるのもそうだし、教員と学生が共に学ぶ存在であるのも同様です。現実空間をコンピュータ上で再現し、双方を常に連動させるデジタルツインという新しい技術もまた、リアルとデジタルを融合させた概念と言えるでしょう。例えば、実際の工場でのモノづくりと同じプロセスをコンピュータ上でリアルタイムに稼働させることで、現実で問題が生じたとき、すぐに解決策を提示できるわけです。今年6月、八王子キャンパスに設置した片柳研究所デジタルツインセンターは、本学におけるその研究拠点です。エンジニアリングだけではなく、エンターテインメント系から応用生物学まで、あらゆる分野に応用が期待できるため、各学部の教員や学生が関わることで、領域を越えた学びや価値創造を可能にします。実はこの組織は、本学単独ではなく、同一学校法人が運営する日本工学院専門学校および日本工学院八王子専門学校との連携事業によって設置されました。本学の強みは、キャンパス内に専門学校が隣接していること。そのリソースを活かさない手はありません。先日、学部生数人と会食した際、「授業が少ない4年次の空いた時間に専門学校の講義を聴講したい」という意見を聞きました。就職前に、より実践力を磨いたり、未知の世界に触れることは貴重な経験になるはずです。あるいは、修士取得までを5年で行う本学独自の「学士・修士一貫早期修了プログラム」を活用することで、浮いた1年を専門学校で学べたら有用かもしれません。今後、大学と専門学校を一体として捉え、多様な学びのルートを提示していきたい。それができるのも本学の強みです。47学長プロフィール かがわ・ゆたか●1952年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了(工学博士)。東京大学生産技術研究所教授、同大学院工学系研究科教授、同国際・産学共同研究センター教授、同先端科学技術研究センター教授を経て、2017年東京工科大学教授、同片柳研究所長、同セラミックス複合材料センター長。副学長を経て2023年より現職。大学プロフィール1986年創立。八王子キャンパス(東京都八王子市)に、工学部、コンピュータサイエンス学部、メディア学部、応用生物学部を、蒲田キャンパス(東京都大田区)に、デザイン学部、医療保健学部を設置。「豊かな教養と高度の学術を教授、研究し、もって社会の繁栄に貢献できる豊かな人間性と創造的知性を備えた実践的指導的技術者の育成」を建学の理念とする。2023 OCT. Vol.448 改まとめ/堀水潤一 撮影/丸山 光
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