はわかりやすい成果を求めず、試行錯誤の時間を保障することが重要だと考えています」(朝倉先生)この探究活動は高校のすべての学びの集大成という位置づけで、生徒は幅広い教科で学んだことを総動員して取り組む。生徒アンケートによると、この活動を進めるにあたって役立った教科として、すべての教科があがる(図2)。また、生徒1人あたりが挙げた教科数は平均2.6で、さまざまな教科の知識と見方・考え方を統合して探究活動に活かしていることがわかる。一連の「探究力」育成プログラムの実施効果は、さまざまな調査結果が物語っている。なかでも目を引くのが、生徒対象のSSH意識調査結果の推移だ。20年度入学生の「科学的探究力」に関する項目の肯定層は、3年間で約64%から約80%に増加している(図3)。また、「持続可能な社会の探究」実施後の生徒アンケートのコメントからは、常に自分の意見を批判的に見たり、複数の意見や資料をすり合わせて多面的に考えたりする力を身につけ、日々の生活にも活かしている様子がうかがえる(図4)。教員も大きな手応えを感じている。 「友達の意見を聞いたり、友達に自分の意見を受け入れてもらったり、対話を通じて自分の視野を広げながら物ごとを追究していく力が育っていると感じます」(玉谷先生) 「一見大人しく見えても、自分の中に何かに挑戦してみたい気持ちがある生徒が多く、それぞれのタイミングで主体的に行動を起こすようになります。そうして活動するなかで小さな自信を積み重ねているようです」(沼畑先生)年度からの第2期SSHに向けて、より効果的なプログラムへと見直しを図る。そのなかで、「本当の協働」の実現に一層力を入れていく考えだ。 「単純に役割分担していれば協働かというと、そうではありません。一人ひとりが考えたことを持ち寄って話し合い、そこから何かが生まれ、それぞれが新たな一歩を踏み出すことができる。それが、私たちが目指す協働です。生徒にとっては大変ですが、うまく協働が回り始めると非常に面白がって取り組むようになります。教員がSSH第1期は今年度で終了する。来目配りして、一人の意見で進んでいるグループには適切に介入しながら、本当の協働を促していきたいと思います」(朝倉先生)こうして探究力を身につけた生徒たちの卒業後の活躍に対する期待は大きいという。 「既に、自分のやりたいことを追究する高校生活を送った卒業生の皆さんが、固定観念にとらわれず『楽しいからこうする』『やりたいからやる』という価値観で自由に自分の道を突き進んでいる姿を知っています。目の前の生徒たちが社会でどう生きていくのかも、目に浮かぶようです。先輩たちの姿を参考に、それぞれのフィールドで活躍してくれたら嬉しいですね」(玉谷先生)● 常に自分の意見を批判するならどこを突くかを考え、思考の抜● 従来の考え方では思いつくことができなかったと思われる意見や自分とは異なる意見に出会った時には、自分の意見とどこから違うのか(そもそも価値観が違うのか、物事を考える立場が違うのか等)、どのように違うのかに注目する。● 初めに思いついた問いは大体抽象的すぎたり、探究目的が見えていない不明瞭なものだったりする。しかし、その問いについて観点をいくつか挙げたり、マインドマップを利用して問いをとらえ直したりすることで推敲される。そのうえでグループワークを活かし、さまざまな角度から話し合いを行い、問いについて考察する。一連の流れは簡単にできることではないが総合探究の授業を通して身につけられてきた。3年生12月3年生4月2年生12月2年生4月1年生12月1年生5月● 自分の中に一応ある答えがただ一つの答えではなく、メンバーとの議論の中に新しい視点や価値のようなものを見いだし、それを尊重しつつ議論を進めることを意識している。● 他の人の意見を取り入れることで自分の視点が豊かになることを実感しているため、普段の生活の中でも積極的に他の人と話し合ったり相談したりする姿勢になれている。● 複雑な問題について向き合う忍耐力が伸びた。科学的探究力がアップ。本当の協働へ、さらなる改善をグループで協働して取り組む力が身についた 「課題研究Ⅰ」では、水害に強い家具の配置をテーマに、流体実験などを行いながらグループ研究を行っています。メンバーの発言を引き出したり、意見を組み合わせたりするなかで、ほかの人と協働して取り組む力がついてきたかもしれません。でも、実験したあとにこうすれば良かったと思うことも多く、多角的に見通す力はもっとつけたいと思っています。将来の方向性については、工学分野に興味があります。自然や原理を追究する理学も大切ですが、実際に世の中にどう活かすかを考える工学のほうが、より面白そうに感じるからです。ただ、「新教養基礎」で学問分野を横断して研究している大学の先生のお話を伺うなどして、今は分野や科目という枠組みにとらわれずに学んでいけたらと思っています。(2年生・横山 咲さん)お弁当から出発した研究が進路目標に 課題研究で、マグロの皮を用いた個人研究を行っています。最初は、お弁当に入れた焼きサバの臭いが気になったことから、「魚の酸化を抑えるためにはどうすればよいか」を考え始めました。取り組むうちに、魚の皮には酸化を抑える脂が含まれているけれど、その多くが廃棄される実態を知りました。そこで、魚の皮の有効活用による、酸化を抑える新しい食品加工を考案できたらいいなと思って取り組んでいます。実験の結果、組み合わせる素材としてコーヒーとの相性がよいことがわかり、ごみの削減にもつながるコーヒーかすを活用する方法を考えました。こうした取組を通じて、自分のやってみたいことに社会的な配慮を加えて考えられるようになったと思います。また、この研究が面白かったことがきっかけで、大学で食物栄養学を学ぶという進路目標ができました。(3年生・内海紅梨さん)2023 OCT. Vol.448けがないようにすること。図4 「持続可能な社会の探究」で意識していることや学んだこと (2022年度生徒アンケートより抜粋)Interview51図3 2020年度入学生の「科学的探究力」の経年変化 (SSH意識調査結果より)どちらでもない否定層肯定層
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