キャリアガイダンスVol.448
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恵理子先生は、生徒が「評論」にふれるにあたり、筆者の意図を汲むきっかけとなる汎用的な枠組みを伝授している。例えば、「対比・相違点・共通点」などだ。生は、教科書に載る評論「時間と自由の関係について」を読み込むことに挑んだ。昔の学校には時計がなく、時計に支配されていなかった、という話から始まる評論だ。生がワークシートを配って投げかけた。「筆者の意図を考えてみようと思います。この文章からわかることはこういうことかな?という点を書き出してみましょう」文から抜き出した次の2つの文章。問A「時間について話をするなら『時間を有効に使いなさい』ではなくて、『時間を有効につくりなさい』でなければ、ならなかった。」問B「長い時間が一瞬のうちに過ぎ去ったり、逆に僅かな時間を過ごすために、あきあきするほどの『長い時間』が必要だったり。時計のうえでは長い時間が経過したのに何も残らない時間があったり、ほんの僅かな時間が自分を変えてしまうほどの大きさを持っていたり。」5分間で記述。次いで隣同士で2分間議論。さらに延沢先生と生徒で言葉のキャッ山形県立東桜学館中学校・高校の延沢1学期終盤の国語の授業。同校の1年まずは個々に黙読。そのあとで延沢先シートに記載されていたのは、評論の本この文章から読み取れることを、各自がチボールをし、出てきた意見を黒板に書き出し、全体で共有した。例えばある男子生徒は問Aをこう読み解いた。「自分たちが当たり前に使っている言葉は『時間を有効に使え』だけど、筆者はその一般論を否定していて、『有効につくる』ことが大事だと考えている」発言を引き取って延沢先生が続ける。「そう、評論には基本、一般論と筆者の考えの『対比』構造があるんだったよね。その対比を見つけるヒントになるのが、互いに食い違う部分のある『相違点』。この文章では、時間を使う/時間をつくる、という相違点が出てくるわけだけれど、じゃあこの2つはどう違うの?」話をふられた女子生徒が、頭の中から言葉を引っ張りだすようにして返答した「時間を使うは…時間がもうそこにあって、それを使わせてもらう。時間をつくるは…自分が時間を支配するみたいな?」延沢先生が応答する。「そうね。時間を使うは『すでにあるものを使う』。時間をつくるは『ないものを生み出す』感じがあるんじゃないかな」時間を使う/つくるの違いを明確にす         るために、問Bの文章からは何が読み取れるかも探った。男子生徒が「〜たり、〜たり、とあるから具体例っぽい」と口にし、そこから「時間をつくることに関わる例のようだ」という話に。ならば「その例の『共通点』は何?」と延沢先生。読むための枠組みをもって生徒が評論と向き合う筆者の考えにふれながらものの見方や考え方を磨く取材・文/松井大助 撮影/川島啓司大学卒業後、山形県で高校教師に。本記事でふれる国語の指導のほか、長年、進路指導にも注力してきた。「全国女性進路指導研究会」「山形若手・中堅進学指導研究会」の立ち上げメンバー。学生時代からあこがれた故・大村はま氏は生前、毎年山形に来訪。同氏に若い頃学んだことが現在のベースとなっている。2023 OCT. Vol.44854

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