キャリアガイダンスVol.448
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延沢先生は、中学時代に信頼できる先生と出会えたことを機に、教師を志したという。大学の卒論では、国語教師であり教育研究者でもある大村はま氏を研究。彼女のように「一人ひとりと向き合う教育をしたい」と理想を抱いて教師になった。そして初任校から、生徒が活発に発言する授業を実践した。今風に言えば「主体的で対話的な授業」であり、先進的だ。だが当の本人は、授業を重ねるなかで「自分の未熟と欺瞞」を感じていく。「授業は盛り上がるのですが、テストをすると生徒が思いのほか答えを書けなかったのです。楽しく話しているが、学びは深まっていない。これで力がつくのか。そもそも国語の力をつけるとはどういうことか。私はそこがまだ見えていないと痛感したのです。20代から30代にかけては、もがき続ける日々になりました」研修や勉強会に参加し、国語という教科をもっと知ろうとした。教員2年目に、仲間と国語学習の研究会も立ち上げた。そうした模索を続けていた最中に、自身にとって国語や教育のことをより切実に考えざるを得なくなる出来事を体験した。2011年の東日本大震災だ。延沢先生は宮城県の海沿いの地域出身。津波が押し寄せた大震災で、幼いころからの思い出の場所を数多く失った。被災後、その地元に勤務地の山形からなんとか戻った時は、破壊された土地と憔悴した家族や友人知人の姿にただただ涙した。ぬぐい去れない喪失感。その時に、変わり果てた景色を見ながら「なくならないものって何だろう」と考えたという。「なくならないものは、人の心に残したものだけなのではないか。自分は生徒たちの心に残せるものをもっているのか。そんな問いが浮かんだのです。高校で私がやってきたことは国語の教科指導と進路指導。ここをもっと鍛えて、生徒の心に残るものを伝えていきたい、と思いました」ようになった。進学校に勤務した時、入試問題を大量に解くことを経験し、「思考するに足る問い」があると学びが深まると感じたからだ。山形県最上地域の小中高大の国語の先生たちと、共に学び合う会も立ち上げた。策定されると、今後の教育の行方を見国語の研究会では「作問」に注力する2015年に高大接続改革プランが定めようと、地元大学の入試センターから文部科学省にまで直接話を聞きにいった。「PBL(課題解決学習)」や「個別最適化」という概念にも出会い、外部の講座やオンラインセミナーに参加して自ら学び、国語の授業で試してみた。その実践を通して「生徒が『独自性』を発揮できるよう寄り添うことと、『共通性』を獲得できるよう指導することの両方が大事ではないか」との思いを深めていった。さらに2017年からは中高一貫校の現任校で、中学1年生が高校3年生になるまで、6年間持ち上がりで国語を教える機会に恵まれた。発達段階の違いを身をもって知り、例えば高校生になると、中学では難しかった「抽象度の高い思考」も段々とできるようになることを体感した。だからこそ、「社会に出る手前の高校教育の役割」として、高校の国語の授業では、生徒が少し背伸びをしながら抽象的なことを考える時間も大切にした。主体的・対話的ではあるが深い学びではなかった授業心に残るものを伝えようと体当たりで学び続けて        板書をするとき以外は、基本、教壇に上がらず、生徒と同じ立ち位置からやり取りすることを、初任の時からずっと続けている。問いに取り組む生徒。現在の延沢先生の授業は、まずは個々でじっくり思考し、そのうえで対話するのが基本だ。創立2016年/普通科 生徒数576名(男子286人/女子290人)進路状況(2023年3月卒業)大学132人、短大2人、専門学校等24人、就職3人、進学準備ほか11人山形県内初の併設型中高一貫教育校。基本理念は「高い志」「創造的知性」「豊かな人間性」。「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」指定校として「グローカルな視点を持った科学技術人材の育成」にも取り組む。2023 OCT. Vol.44856同僚の先生INTERVIEW国語科山口 優先生国語科吉田 元先生東桜学館中学校・高校(山形・県立)段階を踏みながら問う力も伸ばしたい 中高一貫の本校で、高校籍の教員で初めて中学生を指導したのが延沢先生で、そのあとで私も中学生を3年間担当しました。中高の両方を経験して良かったと思うのは、6年間の学習の体系的なつながりを実感できたことです。語彙力も読む力も、段階を踏んで深めていくのだな、と。今は高校生の指導に戻り、延沢先生と一緒に教材の切り口などを考えています。理想としては、卒業までに、生徒が「自分で問いを立てて文章を読む」ところまでもっていけたらと思っています。文法という基礎を教えることも大切 延沢先生と吉田先生に続き、高校籍の教員として、現在、中学生に国語を教えています。中学1年生の国語の授業では「口語文法」を教える機会があり、以降の「古典文法」の指導にも生かせるメリットを感じており、自分の勉強にもなっています。延沢先生からは「頭の柔らかい中学生のうちに語彙をしみ込ませると読む力が高まるよ」とお聞きしており、語彙も意識して指導中です。中高のどの時期にどんな力が身につくとよいか、私も模索していきたいと思っています。

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