キャリアガイダンスVol.449
29/64

たので、抵抗がなかったようです。そうしてあえて無職期間を設けた妻が、自分の感性を取り戻し、選択肢を広げ、やりたいことを見出し、次の仕事に就くまでのプロセスを間近で見て、まるで旅行に出かけて人生を振り返りながら回復していくようだと面白く感じました。欧州ではこのような離職の選択をキャリアブレイクと呼び、カルチャーとして根付いている国もあるそうです。こうしてキャリアブレイクについて関心が深まり、さまざまな文献を調べたり発信したりするようになりました。2022年に独立し、その後、一般社団法人キャリアブレイク研究所を立ち上げました。研究を始め、離職・無職経験者の話を聞くうちに「ちょっと一回手放して、今いる場所から離れてみる」ことの効用に気づきました。僕たちは普段、どこかのコミュニティに所属して生きています。知らず知らずのうちに所属している会社や役割を背負い「〇〇社の社員としては〜だと思う」「教員としては〜という判断をする」というように、自分以外を主語にさまざまなことを考えるようになっていきます。しかし所属している場所から一度離れて「孤立する」ことによって、自分を主語にして考える時間が取り戻されるのです。すると「本当はこうしたかった」「実はこれに興味があった」など自分の本心や使命に気づくことも。これを僕は「創造的孤立」と呼んでいます。歴史的に見ても、時代を変えた偉人や、その当時の常識を覆して新しい文化をもたらした人たちの多くが、その時代の王道や大きな組織から一度離れて孤立しているのです。孤立によって「私」が復興し、それまで見えなかった選択肢が目に入るようになる。選択するのにもコミュニティを頼りにできないので、自分で納得して、自分で決めなければいけない。その「自分で納得して決めた」プロセスが自信になり、新しい運を手繰り寄せる。こんなサイクルが回り始めます。キャリアブレイクを経て再び就職できるの?とよく聞かれますが、実際のところ僕の知る限り就職率は高く、企業に勤めてからもアントレプレナーシップを発揮できる人が多いようです。もし字や絵が書いてある部分    生に余白という表現を用いるのが主で、余った白い部分を余白というなら、僕はキャリアや人は、とってつけたような不自然さを少し感じます。「ゆとりを無理やりつくる」という意味での余白ではなく、今まで積み上げてきた不要な価値観や怖れを一旦みずからブレイク=壊し、手放すこと。それが人生の回復と次の一歩につながっていくのではないでしょうか。そう考えると旅行に行って自分を振り返ったり、別の業界の人と話したりすることもキャリアブレイクの一つと言えるでしょう。とはいえ教え子が「ちょっと無職になってきます」と言ったら、先生方のお立場では心配されるのが普通ですよね。僕は今34歳ですが、僕より下の世代はキャリアに対して柔軟に考え、状況に応じて変化できる弾力性をもっていることが多いように思います。それは近年の新しい教育が、学校の外で花開いている証だと思うのです。心配は尽きないかもしれませんが、きっと今、先生方が一生懸命育ててくださっている生徒さんが社会に出るころには、もっと弾力的なキャリアを歩めるようになっているはずです。ですから人生におけるブレイクの可能性にも希望をもちつつ、一緒に悩みながら、次の世代の新しい生き方や働き方を模索していけたら嬉しいです。余白が生む未来292024 JAN. Vol.449所属している場所から一度離れて孤立すると、主語が自分に戻り、「私」が復興する。「ちょっと一回手放して、離れてみる」キャリアブレイクがもたらす新たな人生

元のページ  ../index.html#29

このブックを見る