キャリアガイダンスVol.449_別冊
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4Vol.449 別冊特集 「特に職場におけるコミュニケーションは課題達成的になりがちです。例えば、売上げを伸ばすという課題達成を最優先にして、その結果、アグレッシブな自己表現で部下に苦痛を与えている上司は少なくありません。しかし、ものごとを達成するためのコミュニケーションには、課題達成的な機能と同時に、人間関係を維持するための機能の両方があります。人間関係を維持することをおろそかにしては、集団全体のパフォーマンスも下がりますし、課題達成も遠のいてしまう。だから、このコミュニケーションのバランスをとることが必要なんです」 だからこそ、アサーションをトレーニングによって身につけることが大切になる。その基本になるのがDESC法というコミュニケーション方法。図4に示したように、「客観的に事実を伝える→自分の気持ちを表現する→提案・お願いをする→選択肢を用意する」という4ステップを意識するというものだ。 自分の気持ちを表現することがアサーションにとって最も大切であることは既に述べた通りだが、その前にまず事実ベースで状況を共有することがDESC法のポイントの一つ。また、提案に対して相手がYESなのかNOなのか、両方の反応を想定して選択肢を用意しておくこともポイントになる。 「『言って見る』と私はよく言うのですが、提案したら相手の反応をよく見て、それに対応した会話をすることが大切です」 DESC法は高校生でも実践することができる。例えばグループワークのディスカッションなどで試してみるといいだろう。気持ちを伝える前に事実を共有するとコミュニケーションがどう変わるのか、相手の反応を見て選択肢を用意しておくと議論がどれ図4図5①自分の気持ちや考えをはっきりさせる②伝えたほうがお互いにとっていいか、そうであればどう伝えるかを考える③伝えるDESC法の4ステップアサーションの順序だけスムーズになるか実感できるだろう。 ここで、アサーションを実践するうえで大切な4つの原則について触れておきたい。平木氏が挙げるのは「誠実」「率直」「対等」「自己責任」というキーワードだ。 「例えば、相手の言動で怒りを感じたときも、その直前には、それを言われたときに感じた『がっかりした』『悲しい』などの気持ちがあるでしょう。その感情に『誠実』になり、それをありのままに『率直』に伝えることが大切ということです。また、肩書き、年齢は違っても、人間として相手は上でも下でもない対等な存在だと認識することもアサーションの重要な柱です。そのうえで、結果に対して自分で責任をもつこと。『上司がこう言ったから』と他責で発言・行動をするのではなく、『自分はどう思うのか』を軸に表現していくことが大切です」 アサーションは高校生にとって大学選びや大学生活のプランニングをするうえでも重要なキーワードにもなるだろう。 大学には高校以上に多様な人たちが集まり、授業やサークルでの社会活動、留学、インターンシップなど、学外の多様な人たちと交流するチャンスも増える。その意味では、留学生、文系、理系などさまざまなタイプの学生が集まり、社会活動の支援にも力を入れている大学に進学し、違いを乗り越えるコミュニケーションを数多く重ねることが、社会に出た後にも役立つコミュニケーション力を養うことになる。 「アサーティブなコミュニケーションが実践されている環境では、相手を理解したいという気持ちが強くなり、『人から学ぶ』ことも多くなります。その意味で、アサーションは人の成長にも大きく関わってくるテーマです」 アサーションの視点から、自分の成長や大学選びを考えることは、社会に出た後の「コミュニケーションの壁」克服にもつながる有効な方法といえるだろう。

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