価値の高い建物も多くあります。しかし、京都で生まれ育った私にとっては、どれも身近な光景。言ってしまえばありふれた日常のひとつでした。それが一変したきっかけは、ある漫画に出合ったことです。高校2年生のとき、新選組をテーマに幕末を描いた渡辺多恵子先生の『風光る』という作品を知りました。そのストーリーや世界観に私は夢中になりました。ある日、いつも通り学校に向かおうと、自転車をこいで鴨川沿いを通っていたときのことです。ふと目の前の景色界有数の観光地、京都。世界中から旅行客が集まり、神社仏閣を中心に歴史的と、漫画に描かれていた京都のまちが重なりました。ああ、ここはあのシーンで描かれていた場所だと気づいたそのとき「かつてこの道を、たしかに沖田総司が歩いていた」と突然実感したのです。そのときの驚きは今も忘れられません。100年以上前、ここは間違いなく激動の幕末史の舞台だった。頭ではなく肌でそう感じました。それからというもの、私は漫画に登場した新選組ゆかりの地を旅しました。旅、といっても遠くに行くのではなく、それまでも何気なく通り過ぎていた地元の範囲内を巡るだけです。しかし『風光る』の視点で見つめれば、目の前に隊士たちの行き交う姿が見えるようでした。新選組の名を轟かせた池田屋事件。その舞台となった池田屋跡地は当時パチンコ店になっていました。しかし、その場に足を運ぶと「この道を歩いてきて、ここから討ち入ったのだ」と、隊士たちの動きが想像できるような発見がありました。本で読むのと、実際にそのまちを歩いてみるのとでは、まったく感覚が違ったのです。次の通りで誰が待ち伏せしているのかわからない幕末の緊張感を追体験するかのようで、ゾクゾクしたのを今でも覚えています。まるで自分の足で、幕末の京都を旅するような感覚でした。さまざまな場所を巡るたびに私の「好き」は膨らんでいきました。『風光る』の舞台である京都を巡るオフィシャルツアーの存在を知り、高校生ながらたった一人で参加したことも。まさか自分にそのような行動力があったとは。一般公開されていないような場所でも、知り合いのつてをたどって個人的にお願いすると、快く見学させてもらえたこともありました。高校生の私には緊張する経験でしたが、こうした経験を通じて対人力や交渉力も磨かれていったのかなと思います。それまで家と学校の往復で世界が完結していた私にとっては、近所とはいえ、どれも大冒険です。普段なら関わることもない、幅広い年代の人たちと出会い、「好き」を通じ取材・文/塚田智恵美 撮影/増田えみ(11ページ)、小森園 豪(12ページ)かどかわ・まき●京都生まれ。旅行代理店に勤めた後、まいまい京都に転職。600人を超える各分野のスペシャリストが独自の視点でガイドするまち歩きツアーを運営する事務局兼同行スタッフとして働く。高校時代、通学路として毎日通っていた京都・鴨川。まいまい京都では、鴨川周辺を案内するツアーをたくさん企画している。2024 APR. Vol.45010旅という非日常では、自分の心のありようにも変化が生じるような感覚になることがあります。旅を通じて「自分の当たり前」の外に出た人は、どのような景色を見て、何に気づいたのか。さまざまな旅をしてきた5名にお話を聞きました。 世 通学路から幕末の京都へ。「好き」で旅して「好き」でまちを知る旅に出て、「私」が始まる
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