界の人たちはどんなものを食べているんだろう?―好奇心の赴くままに、これまでおよそ25以上の国と地域を訪れ、150以上の家庭の台所にお邪魔し、一緒に料理をさせてもらってきました。高校で世界地理に夢中になり、大学では土木工学を専攻。当時は途上国に関わる仕事をしたいと思っていました。転機のひとつは大学院時代にウィーンに留学したこと。西欧、東欧などさまざまな国の友人ができて、バックパックで約30カ国を旅することに。ボスニア・ヘルツェゴビナ出身の友人に誘われて彼の自宅へ遊びに行ったときは、おばあちゃんが「ピテ」というパイのようなものをはじめ、家庭料理を振る舞ってくれました。私がそれまで知っていたボスニアといえば、紛争で多くの犠牲が出た国。実際、街には弾丸の跡が生々しく残っているところもありました。でも初対面の私にピテを振る舞い、別れ際にはぎゅっと抱きしめてくれたおばあちゃんは、本やニュースを通じて知っていたのとは異なる、優しいボスニアの一面だったのです。日常の食卓からこそわかる、人の表情や暮らしがある。私はそれを知りたい。また、日々の料理が生まれる象徴である台所を通じて大きな社会の動きや、うねりが見えてくることにも気づき、次第に台所探検という形になっていきました。皆さんは、住み慣れた日本では、強い意思をもたなくても目的地に辿り着覚めたのは、社会人3年目のころ。どうしてもNBA(米プロバスケットボール)の試合が観たくて、週末に有給休暇を足して3泊5日でロサンゼルスに行きました。「平日の仕事に支障がない範囲で旅しても、これほど楽しめるんだ」と驚き、それから旅にのめり込んでいきました。次第に、旅のもつ効用を感じ始めま 世 会 り眺めることもなく、敷かれたレールのす。僕たちは慣れた日常のなかでは、ルールを疑うことも、周りの景色をじっく上を自動で走る列車のようにも生き社に勤めながら、週末などの休日を利用して世界中を旅してきました。旅に目ることができます。しかし旅先ではそうはいきません。初めて訪れる場所では、外の世界に対して五感が研ぎ澄まされたような状態になります。言語も通じず、地下鉄に乗るだけでドキドキ。目的地に着いただけで成功体験に。そんな非日常のなかでこそ、真の自分と向き合えるのだと気づきました。2015年のキューバへの旅は忘れられません。音楽が聞こえてきたので民家をのぞいたら、招き入れられて一緒にダンスをしたり、靴が泥だらけになって困っていたら、見ず知らずの女性が靴を洗ってくれたり。現地の人の生活に触れて楽しい一方で、僕はなんだかモヤモヤするような気持ちになっていました。そのモヤモヤは、今思えば「僕の知っている生き方の外に、こんな幸せがあウクライナを訪れた際は、現地の人が「朝食に」と言って、チーズを使ったシルニキというパンケーキを振る舞ってくれた。ボスニアでおばあちゃんが作ってくれたピテ。「一緒に食卓を囲んだ人たちがいると思うと、遠くの国を近く感じます」意思があれば世界への扉は開く150家庭以上を訪ねた台所探検休日だけで世界のどこにでも行ける思い込みを外し、自分を知る旅へ帰りの飛行機では、写真を見ながら振り返りをする。「なぜこれを撮ったのかと考えると、自分が心を動かされるものに気づく」おかねや・みさと●1989年生まれ。クックパッド株式会社で勤務、その後独立。世界各地の家庭の台所を訪れて、料理から見える暮らしや社会の様子を発信。とうまつ・ひろふみ●1987年生まれ。平日は広告代理店で働く傍ら、週末で世界中を旅する。12年間で85カ国204都市に渡航。全国各地で講演も実施。旅先では、現地の人の生活が見えるスーパーやレストランに行くのが好き。キューバの旅でも、現地の人との交流を楽しんだ。2024 APR. Vol.45014
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