誰もが知っているから。第二に、その物語で描かれるのは主に市井の人で、生徒が自分とも重ね合わせやすいからだ。 「『赤ずきん』など童話から歴史を読み解く授業をしたときに、ある生徒がこう言ってくれました。『歴史の授業は偉い人の話ばかりで自分に関係ない』と思っていたけど、『今日の授業は全部聞いたことのある話で、自分たちと同じ庶民の話だから面白かった』と。共感しやすいところから歴史を学ぶことができれば、生徒の興味・関心も高まると思うのです」以前にはスポーツやファッションを題材にした歴史の授業をやってみたこともあった。だが、スポーツが好きではない生徒や、ファッションに興味のない生徒がいて、意外と「万人受けはしなかった」という。これに対して、より手応えを得られたのが、伝承されてきた物語を扱うことだった。 「妖怪や童話というのは、共感されないものはどんどん消えるなかで、今に至るまで語り継がれてきたものです。例えば桃太郎の話は、誰が話しても大筋はほぼ同じになります。それだけ人が受けとめやすい物語であり、そうして語り継がれてきたものには、普遍的な見方や考え方が根底にあるのだと思います」かつては西洋で語られていた多種多様な怪物が、日本の妖怪ほどは今に伝承されていないのはなぜか。そこには「キリスト教が広がったことが関係しています」と堤先生は解説を続けた。 「全知全能の神様がすべてを統べるという考えが広がると、今まで語られてきた不思議な生き物は、その神様に対してどういう存在なのか、という見方をされていくのです。そして神様に従うものが残り、ほかはあまり語られなくなります」めいっぱい使いながら「日本と西洋のものの見方・考え方」へと一気に広がった。天国と地獄、天使と悪魔のように、物事を二つに分ける「二元論」で考える傾向があること。日本では、人が神にもなれば、神が妖怪にもなり、亡くなると誰もが黄泉の国にいくなど、もともとは一つのものとする「一元論」で考える傾向があること。その点を押さえたうえで、プリントにも記載した問いを投げかけた。 「一つがいいのか、分けたほうがいいのか。一元論と二元論どちらが適切なのか」が、堤先生は双方に良い面があることにふれたうえで、こんなふうに話を結んだ。 「今の世の中は、VUCA時代と言われるように、変化が激しくて先が読めません。そうした混沌のなかでは『分けて考える』『比べて考える』ことをしたほうが物事を理解しやすくなります。しかし現代は『皆で一緒に生きる』『共生する』ことも求められています。SDGsという世界共通の目標が掲げられたように。じゃあ、私たちはこの先をどう生きればいいのでしょう? そこから話は、電子黒板および黒板を西洋では、神とそれ以外(上下関係)、答えは生徒自身に考えてもらうものだ大切なのは何事も自分のこととして考えてみることだと思います。『自分だったらどうするかな』と。物事を自分の問題として捉えていくと、いつしかそれは自ら考えたくなる『やらなきゃいけないこと』になり、己にも迫ってくるようになります。ものの見方・考え方をそうして深めていくと、これからの世界でも豊かに生きていけるのではないでしょうか」歴史的背景から生じた考え方の違いを体感して57電子黒板でも、絵巻物やイラスト、写真など100枚以上のスライドを使って妖怪や怪物を解説。過去から現在まで具現化されてきたその姿に、生徒たちも興味をそそられていた。2024 APR. Vol.450プリントでは漫画やイラストなど視覚にも訴える資料をたくさん活用(併せて読み応えのある文章中心のプリントも配付)。じーっと眺めている生徒たちの姿が印象的だった。
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