キャリアガイダンスVol.451
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なぜ今、探究なのでしょうか。新しい学習指導要領の根幹にあるのは、生徒観・学力観の転換です。生徒を教育の対象としてではなく、学びの主体へと転換する。与えられた問題に受動的に取り組むのではなく、学びのオーナーシップを生徒がもつ。大切なことは生徒を、サービスを受ける「お客様」ではなく、自ら価値を生み出す「生産者」へと育てることだと私は思っています。大学に入学してから学力観を転換―      すれば間に合った時代もあったかもしれませんが、今の大学生はするべきことが多く、就職活動に取り組む時期も早まっています。また、高校卒業後、すぐに社会に出る生徒もいます。人材教育にかける余裕がない企業が多いことも踏まえると、高校段階から自ら課題を発見し、解決に向かう力を鍛えることは大切です。そうした力は、どこで育つのか。カリキュラム全体を通して、とは思いますが、軸となるのはやはり、学習指導要領の目標に「よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成する」という一文のある総探においてでしょう。関心のある課題について、情報を集め、さまざまな体験を通じて整理・分析し、他者とも関わりながら自分なりにまとめ、表現するという一連の学習プロセスは、レポートやゼミ活動を中心とした大学での学びと親和性があるばかりではなく、社会で必要な力そのものだとも思います。今の社会はさまざまな課題を抱えてはいますが、一方で、若い人が活躍する機会が増えています。十数年前であれば、高校生が起業したり、学会で発表したりはもちろん、企業や地域を巻き込んで実際のプロジェクトを進めることさえ珍しいことでした。総探は、そうした一歩を踏み出す機会になるはずです。西大和学園中学校・高校の梨子田喬先生(元岩手県立大船渡高校)は、私との共著『探究が進む学校のつくり方』において、教員のマインドセットについて次のように書いています。教員のマインドセットには、星の王子さまの「実業家」のような生真面目さがあります。①全員が同じようなことを、同じように取り組んで、同じような到達度に至らないといけないとか、②先生が全員の学びを管理し、アドバイスを通して答えのようなものを生徒に落とさなくてはいけないとか、多くの課題を抱える社会だが若者が活躍する機会も確実に増加管理、指導するというマインドセットからの転換を第2部探究の落とし穴サービスを受ける「お客様」ではなく、自ら価値を生み出す「生産者」に特集 今、探究をどう進めるか?『探究的な学びデザイン』『探究が進む学校のつくり方』酒井淳平 梨子田 喬編著(明治図書)酒井淳平著(明治図書)なぜ今「探究」が必要なのか。押さえておきたいポイントや落とし穴など、探究の進め方を現場の視点で解説。全国10校の実践事例も掲載。探究の推進には教員個人だけではなく、学校組織としてどう向き合うかが重要という視点で、マインドセットから体制づくりまで事例を含めて解説。

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