キャリアガイダンスVol.451
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③生徒にはきちんと成果を出させ、成果が出ない生徒には指導を加えなくてはいけないとか、④公平公正客観的に全員を評価すべきとか、挙げればきりがありません。(数字は編集部)ただ、こうしたマインドセットを変えることは容易ではありません。私自身、数学の授業で「このクラスは、このままではまずいな」と不安なときほど、②や③のようなマインドに陥り、生徒に考えさせようとはせず、一方向のレクチャーが増えてしまいます。その結果、生徒がより理解できなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。をした生徒もいました。しかし、その試行錯誤の過程は論理的で筋が通っており、内容にも人を唸らせるものがありました。成果がなくても十分探究の深さを感じることができました。このエピソードに共感する先生は多いのではないでしょうか。発表会はあくまで、次のステップに進むきっかけを与えてくれる場所。確かに、見栄えのいい発表やコンテストでの受賞といった成果も素晴らしいですが、それ以上に、予想を超えた生徒の成長を喜ぶ先生が多いでしょう。生徒の成長こそ教員の一番の成功体験。「こうあその点、「教員はこうあるべき」という思い込みから脱却しやすいのが総探ではないでしょうか。そもそも総探は、教科の専門性が役に立つとは限りません。本校でも数学関連の課題を設定する生徒は少ないため、私のような数学の教員にとっては専門外のテーマばかりです。知識がないだけに「伴走」するしかありません。ただ、知識がないことで生徒と一緒に考え、素朴な疑問を投げかけたり、必要に応じてその分野に詳しい人を紹介したりしようとできているのかもしれません。また、生徒に教えようとすることもなく、生徒の思考の深まりを共に楽しめるようになっているかもしれません。総探はまた、思わぬ形で生徒の成長に立ち会わせてもらえます。梨子田先生も先の文章に続き、③や④を念頭にこんなエピソードを紹介しています。以前、貼られた白紙のポスターを前に苦笑いしながら「間に合わなかったんで」と言って20分も熱弁を振るっている生徒がいました。カラフルなポスターの前でよく準備された原稿を読んでいる生徒の発表より、はるかに探究の質が高かったです。また、「結局うまくできませんでした」という発表見栄えではなく探究の質を重視。生徒の成長という成功体験が原動力に―    同「総探」と他教科・科目における探究の違い立命館宇治中学校・高校での実践総合的な探究の時間で行われる探究は,基本的に以下の三つの点において他教科・科目において行われる探究と異なっている。一つは,この時間の学習の対象や領域は,特定の教科・科目等に留まらず,横断的・総合的な点である。総合的な探究の時間は,実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在する事象を対象としている。二つは,複数の教科・科目等における見方・考え方を総合的・統合的に働かせて探究するという点である。他の探究が,他教科・科目における理解をより深めることを目的に行われていることに対し,総合的な探究の時間では,実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在する問題を様々な角度から俯瞰して捉え,考えていく。そして三つは,この時間における学習活動が,解決の道筋がすぐには明らかにならない課題や,唯一の正解が存在しない課題に対して,最適解や納得解を見いだすことを重視しているという点である。(『高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時間編』より。下線は編集部)校では、「お客様から生産者へ」をキャッチフレーズに、自ら価値を生み出す人になるべく3年間かけてマイテーマを深める「コア探究」というカリキュラムを実施。その導入として1年次に実施するのが「問いを立てる」という単元だ。生徒は、問いを解くことはあっても、問いを立てることに慣れていない。例えば講演会の質疑応答で手を挙げる生徒は多くない。そこで、何らかのコンテンツを受講したあと、質問を考えたうえで、質問に優先順位をつけるといったグループワークを実施。コンテンツ自体は何でもいいなかで、毎年実施しているのが、「教員が語る教科を学ぶ意味」というプレゼンだ。酒井先生の場合、「数学は最もグローバルな言語であること」「古今東西の数学者の夢の集まりであること」「暗号や生成AIなど数学抜きで現代社会は成り立たないこと」などを語る。あくまで狙いは、問いを立てる力の育成だが、教員自身が改めて教科に向き合い、生徒に思いを伝える良い機会になっている。しかも、事前に教員同士で予行演習をすることで、他教科の見方・考え方に触れられるうえ、「この人、こんな熱い思いをもっていたのか」などチーム感の醸成にもつながっている。2024 JUL. Vol.45116「問いを立てる授業」の素材として教員が語る「その教科を学ぶ意味」

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