キャリアガイダンスVol.451
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るべき」というマインドセットから転換する何よりの近道です。現行学習指導要領では、「総探」に加え、「理数探究」や「古典探究」「地理探究」などの新科目が設置されています。総探とそれらの違いは学習指導要領解説に譲るとして(図1)、個人的には、探究を進めるうえで、特別活動(ホームルーム、生徒会、学校行事)や課外活動も大切だと考えます。例えば、クラスで文化祭の企画を決める際、この集団で、いかにいいものを生むか、そこに自分の役割をどう見いだし、合意形成しながら納得解を導くかといったことは、探究そのものだと思います。ただ、総探も含め限られたコマ数や放課後の活動だけで真の力がつくわけがありません。としたとき大切なのは日々の授業です。そもそも今ある学問は、先人の探究の成果の蓄積です。教員は、その学問や教科に魅力を感じて教職に就いたわけなので、そうした思いを語るだけでも、授業に探究の要素が入るのではないでしょうか。(図2も参照)。教科の授業を探究的にするというと、大事に聞こえますが、発問一つで変わることを教えてくれたのは授業名人として知られる教育学者の故和正先生です。有田先生は小学校の社会の授業で「バスの運転手さんは、どんな仕事をしていますか?」ではなく、「バスの運転手さんは、どこを見て運転していますか?」と児童に尋ねました。前者の場合、「バスの運転」とストレートに答えがちですが、後者のような発問になると、運転手さんが日々行っている業務について、頭の中であれこれと思考を巡らせることになります。高校にいると、こうした小・中学校宇        の実践は見えづらいものです。義務教育段階においても総合的な学習の時間の長い蓄積によって、これまでと異なる児童や生徒の姿があります。ひと昔前であればグループワークにも慣れていなかった中学生が今は堂々とプレゼンテーションを行うことも。私の勤務校の近隣にも先進的な実践をしている中学校がいくつもあり、そこから学べることは少なくありません(図3)。地域にある中学校の取組を踏まえ、高校はそれをどう受け止めるか。探究という言葉を共通言語に、より良い学校間連携を深める機会だと思います。有田良くも悪くも国を挙げて「探究」を合言葉にしているわけですから、探究を共通言語として、それぞれの実情にあわせて学校を変えるチャンスだとも思います。私自身は、2017年度に校内のカリキュラムを変える際、カリキュラム委員会で交わした「最近の生徒は真面目で素直だけど、受け身になってないか。問題意識をもって、自分から動き人生を切り開けるようなマインドやスキルを育てたい」という議論を受け、私自身のライフワークでもあるキャリア教育の要素を総探の核として取り込むことにしました。そもそも総探は、学習指導要領の目標に「自己の在り方生き方を考えながら」とあり、解説においても「自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し」とあるなど、キャリア教育と切り離せないものです。そこで「本校の総探はキャリア教育の視点を重視して取り組む」と決意。メンバーの理解を得たうえでカリキュラムを設計しました。〝思い〟を載せることなく「総探の担当になったから仕方なく」という受け身のマインドだったとしたら疲弊しか生じなかったでしょう。教科の魅力を伝え、発問を変えることで日常の授業が探究的に探究を活用して学校を変える。キャリア教育はその切り口に第3部探究の組織論■■■■特集 今、探究をどう進めるか?義務教育段階での探究実践と高校との連携17京都府宇治市立黄治黄檗学園は、小1から中3までが同じ校舎で過ごす公立の小中一貫校。令和元年に京都府教育委員会による「未来の担い手育成プログラム」の研究指定を受け、総合的な学習の時間を中心に、7年生は防災、8年生は企業連携、9年生は宇治市への提言という流れで課題解決型学習に取り組む。連携企業から受けた課題は「世界中に日本茶を広めるにはどうすればよいか」というもの。当初の心配をよそに生徒のなかに「自分たちで課題を何とかしたい」という当事者意識や主体性が芽生えるなど、担任が驚くような成長を見せる。一方で、中学生では行動範囲が限定されるという課題や、取り組んでいる学習が高校、大学、社会へどうつながるかイメージさせたいという新たな思いが生じ、立命館宇治高校との協働学習が実現。互いのプロジェクトを発表し、意見を交換しあった。中学生からは、「高校生は課題を自分たちで見つけアクションを起こしているところがすごい」「3年後の自分の姿をイメージできた」という感想が、高校生からは「斬新なアイデアが多く刺激になった」という感想があがった。檗中学校(宇治黄檗学園)2024 JUL. Vol.451

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