キャリアガイダンスVol.451
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う風土醸成のために始めた活動ですが、障がいがある方の職域をいかに拡大するかも含め、生産性や品質向上のための改善活動へと広がってきました。例えば、工場にあるゴミ箱はすべてキャスターが付いています。車いす作業者でも掃除しやすいようにです。また、トラックヤードから各フロアにかけて色別の線が引かれています。知的障がいがある方が目的の場所に間違いなく部品を運べるようにする工夫です。このように、改善することはないか社員全員が常に考え、策を講じているのです。それが「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」というプロセスになっているかと聞かれると、「そんなかっこいいものでは…」と思いつつも、確かに、「探究」と言えると思います。私も実は同じ感覚です。授業でこのプロセスを特に意識しているわけではないですが、生徒の探究の過程を振り返ったとき、こうした過程をたどっていることが多いと感じます。ただし、教員の思惑通りに展開するわけはないため、「この順番でなければいけない」みたいに縛られることのないよう注意しています。いずれにしろ、受け身の若者も多いなか、自ら「課題を設定」するって簡単なことではありません。仕掛ける側にも苦労があるのではと想像します。に関心をもっているか気づくことさえ意外と難しい。「野球が好き」という生徒がいても「野球の何が好きなのか」まで意識していないものです。そのため確かに課題の設定は難航し、最初に出てくるテーマは、どこかで聞いたようなものばかり。そんなとき私の興味は、内容自体よりも、「どう、つついたら生徒の世界が広がっていくかな」など、生徒の頭の中に向かいます。そこを起点に、それまで知らなかった世界に触れ、心から関心をもてる課題と向きあうことができればいいなと思うのです。人との出会いと一緒で、最初から運命的なテーマに出会うなん探究活動に限らず、自分が何てことはありませんから。企業のマネジメントでも、社員一人ひとりが課題感をもつことが大切ですが簡単にはいきません。そこで私は、〝課題形成プロセス〟という独自の手法を使っています。まず、仕事の「目的」に照らして「ありたい姿」を考えてもらい、それと現状のギャップを現象としての「問題」と捉えます。そして、「原因」を掘り下げることで解消すべき「課題」を明らかにし、具体的な「打ち手」を実行するというものです。サッカー日本代表で例えるなら、ブラジルに勝ちたいという「ありたい姿」があるのに、現状、勝てていない「問題」がある。「原因」は指導者なのか、ト 特集 今、探究をどう進めるか?“人に業務をつける”改善活動例段ボール送り出し機間違い防止機構付きピッキングマシーン片手作業者に最適化した製造ライン21【課題】さまざまな材料が必要な製品の梱包工程では作業スペースに余裕がない。そのため段ボールのストックは奥に積まれており、車いすでは作業できなかった。【改善】車いす作業者からの提案で、段ボールを一つずつ手元まで送り出す装置を開発。その結果、これまで段ボールを取るたび中腰になりスクワットに似た動きをしていた健常者の疲労低減にもなった。【課題】複数の部品を過不足なく袋詰めする工程は、ある種の障がいがある方にとって「ミスしていないか」という不安がつきまとっていた。【改善】1500通りの中から事前に設定された光の点灯順にピッキングすればいい機構に改修。間違うとセンサーが反応するためミスも生じない。文字が読めない方や、こうした作業を苦手とする方の職域が拡大することに。【課題】ベルトコンベアで流れてくる製品の左右両側に部品を取り付ける作業を片手作業者が行う場合、両手作業者では不必要な、途中で製品の向きを変えるという工程が増えてしまう。【改善】そこで右手作業者は右側だけ、左手作業者は左側だけを担当するよう工程を分割し、複数人で対応することに。これによってトータルの生産性は維持もしくは向上することに。2024 JUL. Vol.451

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