キャリアガイダンスVol.451
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産外商〟ではなく、町に観光客を呼び込んで商品を買ってもらう〝地産地消〟へと、大きく舵を切ることにしました。ヒントになったのは、農業生産者の方との会話です。「自分たちが作ったものを直接売れる場所が欲しいよね」。当時、町に直売所はありませんでした。漁業者や水産加工業者の方にも聞いてみるとやはり同じ意見で、「これはいけるかも!」と。さっそく、幅広い分野から賛同者を集め、直売所設立準備会を立ち上げました。役場は事務局として公平性の担保や意見調整に努めながら、直売所のノウハウをもつ外部アドバイザーにも入ってもらい、生産者の方々が中心となって準備。2020年、浜辺を意味する方言から「はんばた市場」と名づけた産地直売所がオープンしました。直売所設立と同時に進めていたプロ      ジェクトが、もう2つあります。その1つは電子地域通貨「サンセットコイン」の導入です。発端はマイナポイント事業※でした。キャッシュレス決済が浸透していない町にとっては、町民のお金が町外に流出する危機です。高齢者や子どももマイナポイントを受け取り町内での買い物に使えるよう、新たな仕組みが必要だと考えました。調べてみると、すぐに使えそうなシステムがあることが判明。「これは絶対やらねば」と上司を口説き、財政課に頭を下げて急遽費用を捻出してもらい、20年のマイナポイント事業開始前にサンセットコインを稼働させることができました。もう1つのプロジェクトは、観光客などが余分に釣った魚を買い取る仕組み「ツッテ西伊豆」の立ち上げです。元となった仕組みを他地域で実践していた方と出会い、その手法を聞いた時、全身に電流が走るような衝撃を受けました。「ぜひうちでもやりたい」とすぐさま町の遊漁船組合代表に掛け合い、地域ぐるみで立ち上げました。観光客は提携する釣り舟で釣りを楽しみ、釣りすぎた魚をはんばた市場に持ち込んでサンセットコインと交換、コインを加盟店で買物や食事に使うことができます。ばらばらに始めた3つの施策が、結果的につながったのです。サンセットコインの流通量は年々増加し、23年度は初年度の7倍となる16・8億円に。ツッテ西伊豆は、そのユニークな手法がマスコミで紹介されることで町の宣伝になっています。また、はんばた市場の何よりの成果は、消費者と接する機会があまりなかった生産者の方々が、店頭で直接「おいしい」などお褒めの声をもらい、いきいきとした表情を見せていることです。現場を回っていると、「これに困っている」「あれを何とかせい」とあちこちから声がかかります。地域の課題はその辺にごろごろ転がっているのです。その解決は、地域の力ではどうにもならないこともあります。一方で、地域外には面白いアイデアやスキルをもち活躍の場を求めている人が数多くいることが、東京進出を経験してわかってきました。そこをうまくマッチングし、地域課題の解決につなげることが、私たち役場の大事な仕事。自らが〝プレイヤー〟にならなくても、課題解決に貢献できることは、私の大きな喜びです。今後、海に関する資源を漁業以外にも活かして地域のにぎわいや所得、雇用を生み出していきたいと考えています。海の魅力って、すごく大きいんです。これを別の分野と組み合わせれば、もっと面白いことに発展するかもしれない。その先にきっと町の未来があると信じています。海の魅力を活用して観光や移住を促進海の近くに建つはんばた市場。新鮮な海産物、季節の野菜や果物、鰹節や塩辛などの加工食品が並ぶ。電子地域通貨サンセットコインのカード。カード型とスマホのアプリ型と2種類の利用方法がある。ツッテ西伊豆によって、釣り人は町の魅力を一層堪能でき、地域の漁師不足解消にもつながる。まつうら・じょうたろう●西伊豆町で生まれ3歳から釣りを楽しむ。東海大学海洋学部卒業後、西伊豆町役場に入庁。現在、産業振興課農林水産係係長、兼、漁師。探究へのヒント私は知りたがりで、「なぜ?なぜ?」と質問して大人を困らせる子どもでした。そんなふうに興味をもって深く知ろうとする心は、今、地域課題を掘り下げて解決の可能性を広げることに非常に役立っています。「なぜ?」を問う姿勢は、ずっと捨てずにもち続けたいですね。2024 JUL. Vol.451※マイナンバーカードを作るとマイナポイントがもらえるという国の事業特集 今、探究をどう進めるか?「なぜ?」をもち続けよう25

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