キャリアガイダンスVol.451
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古くから製造と卸の集積地として栄えた東京都台東区蔵前に店を構える「縁の木」。乗り出しました。コーヒーは焙煎や抽出の過程で大量のごみが出ます。それをただ捨てるのはもったいない。福祉事業所と連携してアップサイクルできないだろうか。近所の同業者やカフェ経営者、お客様との雑談のなかでそんなアイデアを語ってみると、興味をもってくれる人は意外と多く、コーヒーかすからたい肥を作れるメーカーを紹介してくれる人が出てきたんです。そこから、福祉事業所の利用者さんが地域の焙煎店やカフェを回ってコーヒーごみを回収し、それをメーカーにてたい肥にするというアップサイクルが実現しました。この仕組みはさまざまなアップサイクルに応用可能です。これに「モデル」と名づけて、地域で協力の輪を広げていきました。また、SNSを活用し、活動を発信するとともに、興味をもってもらえそうな企業・団体や個人を見つけて話しかけ、連携先を開拓。これま障がいのある福祉事業所利用者が地域の店舗を回って、従来ごみとして捨てられていた資源を回収。KURAMAEで、サンドイッチ店の余ったパンの耳からクラフトビールへ、コーヒーの欠点豆からタンブラーへ、不要になったコーヒー豆袋からトートバッグへ…などバラエティーに富んだアップサイクルが実現しています。最近では、学校給食を含む地域のごみを集めてたい肥を作り、それを使って地域の空き地や屋上庭園で栽培したハーブから、ハーブソルトやハーブティ、ボタニカルビールなどを作ろうと、実験と失敗を繰り返しながら挑戦しています。いずれもそのプロセスにおいて、福祉事業所が関わります。屋内作業が多い福祉事業所の利用者さんが地域の人と関わる機会になり、工賃アップにつながることが、KURAMAEモデルの大事なポイントなのです。KURAMAEモデルの事業は、アップサイクルに取り組みたい企業に対する企画・設計や運用の手数料で成り立っていますが、これがびっくりするほど儲からない(笑)。コロナ禍が長引いてコーヒーの売上が落ち込んだときは、本業に集中すべきではないかと悩んだりもしました。それでも今は、やってきて良かったと、心から思います。資源回収を担う福祉事業所の利用者さんが、そこからできた商品を指して「俺の〇〇だ」と誇らしげに言っていたり。障がいや高齢などの困難を抱えている方に、「少し社会と関わってみるのもいいのでは」という雰囲気が出てきたり…。「わが子のために」と始めた取組が、ちょっとでも地域のみんなの役に立っているのなら、こんな人生も楽しいじゃないかと思えてきます。実は私、あまり独創性がないんです。       ただ雑談のなかで「こうありたいよね」「こういうことできたらすごいね」と心KURAMAEモデルは事業者中心の取の声を洩らしているだけ。すると、誰かが興味をもってくれ、ご縁をもたらしてくれる。最近では、「これやってみない?」といろんな話が舞い込むようにもなりました。一昨年、縁の木が発起人となり、商店街に後援いただいて、サスティナブルな取組をしている店舗や企業、施設をめぐる「下町そぞろめぐり」というスタンプラリーイベントを立ち上げました。組ですが、これは住民の皆さんが直接参加するものです。コロナ禍で出歩く機会が減って地域の道やお店を知らない子どもも増えていますが、楽しく巡りながらお店の思いや優しさに触れてくれたら嬉しいですね。さて次は何をするか。私にもわかりません(笑)。頂いたご縁を大切に、縁の木の思いに外れないことを着実にやり続けるのみです。雑談から次々生まれた地域をつなぐアイデアと実践縁の木の事務所では、KURAMAEモデルによって誕生したさまざまなアップサイクル商品が販売されている。しらは・れいこ●株式会社縁の木代表。一般企業の営業を経て、2014年に起業し、珈琲焙煎処「縁の木」をオープン。2019年より地域循環「KURAMAEモデル」を主宰。探究へのヒント自分が今もつ価値観が必ずしも正しいとは限りません。いろんな人に話を聞いて、自分の考えも恐れずに話してみる。苦手だと思うことも、とりあえずやってみる。すると、自分が見えていなかった世界に気づくことができるでしょう。そんな経験を高校時代にたくさんしてほしいですね。2024 JUL. Vol.451※本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること特集 今、探究をどう進めるか?多様な価値観に気づく経験を27

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