キャリアガイダンスVol.451
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 外資系企業出身の私が本学園に入職したのは2006年のこと。翌年度に校名変更や共学化を控え、改革が始まっている時期でした。企業とは異なる文化に戸惑いもしましたが、先生方は非常に熱心。海外帰国子女受け入れ指定校として伝統的に語学教育は高い水準にあり、校舎周辺は各国の大使館が集中するなど国際的な雰囲気も漂っています。しかし、そうした強みを活かしきれず、学則定員の3分の1まで生徒数が落ち込んでいました。そこでまず改革の柱としたのがインターナショナルコースの設置です。思惑通りにいかないこともありましたが、受験者数の急増など、世間から多くの期待をいただける学校になりました。 同コースは中学入学時点で英語が堪能な生徒(AG)と、そうではない生徒(SG)が混在します。SGの生徒にとって最初こそ大変ですが、英語漬けの環境で成長も速く、なかには宇宙工学を学びにジョージア工科大学に進学した生徒もいます。現在本学園では在校生数人を中心に、人工衛星を民間ロケットに搭載するプロジェクトが進んでいますが、その先鞭を広尾学園中学校・高校412024 JUL. Vol.4511918年創立。女子校としての長い歴史を経て2007年に現校名に改称し共学化。本科コース、インターナショナルコース、医進・サイエンスコースを設置。キャリア教育・中高大連携プログラムにも力を入れ、年度末には各分野で活躍する講師30人近くによる「広学スーパーアカデミア」を開催。過去11年で、「THE世界大学ランキング2023 TOP100」に連なる大学の半数以上を含め、延べ869人が海外大学に合格。つけたのも彼でした。今春卒業したプロジェクトメンバーのうち二人が合格したのも、宇宙工学分野でトップを走る海外の大学ばかり。私の世代にとって宇宙やロケットは夢物語でしたが、今の生徒にとっては、学びと直結していることに時代の変化を痛感しています。 広尾学園には、本科コースと医進・サイエンスコースもあり、生徒の目標は弁護士や医者、研究者など多岐にわたります。けれど、各職業の詳細を教員が語ることはできません。医学部合格に導くことはできても医師免許をもつ教員はいないですから。そこで、著名な心臓外科医を迎えて2009年に始めた特別講演会をはじめ、研究室訪問や司法裁判講座など、年間を通して本物に触れる機会を次から次へと設けています。何が生徒の心に刺さるかわかりませんし、興味の対象が変わることもあります。若いうちに幅広い分野に関心をもたせることが大切だと考えています。 急激に変化した学校だけに、悪い方に向かうのもあっという間という危機感は常にもっています。全教職員が参加する年3回の研修は、課題を含め現状認識を共有することから始めます。海外大学の合格者は増えているものの、国内の難関大学を志す生徒の希望に確実に応えているだろうか。日々の仕事に振り回され、生徒対応や自己啓発に費やす時間を疎かにしてはいないか。その辺りの効率化や組織改革をどう進めるかが今の私の課題です。 外部での学校説明会なども含め、できる限り現場に足を運ぶのも私のモットー。その後に行う慰労会などで、職責を超えて語らう時間がチーム感を醸成しているとも感じます。いち早く導入したICTや最先端のサイエンスラボなどが注目されますが、アナログ的なコミュニケーションが果たす役割は少なくありません。国内外の学校からの見学を歓迎するのも情報交換のため。こちらが発信すれば、その分情報をいただけます。そうやって日本全体の教育レベルが上がることを心から願っています。いけだ・とみかず/外資系企業のマーケティング・マネージャなどを経て、2006年学校法人順心女子学園(現 順心広尾学園)に入職し学校改革を主導。経営企画室長、副学園長、理事などを経て2017年より現職。現場に足を運び、日頃から教職員とのコミュニケーションをはかることに注力。互いの考えを共有し、信頼関係を構築したうえで、最終的に決断するのがトップの役割と意識する。まとめ/堀水潤一 撮影/竹田宗司廃校寸前からのV字回復学校改革の核に据えた英語教育(東京・私立)国内外の多くの学校と情報交換し全体の教育レベルの向上に

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