キャリアガイダンスVol.451
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 私は、理屈から入るのではなく実践先行型の教員です。多様なタイプの公立高校において生徒と本気で接するなか、その都度「本当にこれで正しいだろうか」と試行錯誤しては、「これでよかった」という感触を得てきました。ある高校の周年行事では、来校者の車の誘導から式の進行に至るまでを生徒に任せたことがあります。生徒指導上の課題の多い高校であり、心配の声もあがりましたが、生徒自ら、どうすればうまく車を誘導できるかなどを考え、無事やり遂げました。教員は、事故が起きないよう1メートル後ろで見守っていただけです。その体験を基に、異動先の進学校でも同じ取組をしました。違いと言えば、見守る教員の距離を5メートルにしただけ。教員の関わり具合は多少違えど、どんな生徒でも任せることで自ら考え、動くことができるのです。 公立高校を退職後、4年ほど勤務した大学での入試広報の経験からも多くの気づきを得ました。受け身の学習から自ら学ぶという学習観の転換ができないと大学や社会では厳しいこと。チャレンジを避ける若者の多さも名古屋経済大学市邨高校・中学校492024 JUL. Vol.4511907年名古屋女子商業学校として創立。2002年男女共学化。2023年ユネスコスクール加盟。「エクスプローラー・コース」「キャリアデザイン・コース」「アカデミック・コース」「ブライト・コース」の4コースを用意。さまざまな場面を教室に作り出し自然な英語を習得する「GDM英語教授法」や、担任以外の教員が相談に対応する「学びサポータ―」、学内の個別指導塾「ICHIMURA+」なども。気になりました。高校までの教科学習の多くは正解があり、生徒の中には「間違いたくない」という心理が高じて「失敗したくない」「笑われたくない」という気持ちになることがあります。だから私はこう話します。「笑われるのは、突拍子もないアイデアを言ったり行動したりできるから。一方、笑う人間は何も生まず批判するだけ。どちらになりたいですか」と。 こうした経験も踏まえ、もう一度高校で役立ちたいと感じていた私は、2022年度に本校に副校長として赴任。翌年、校長に就任しました。本校は前校長の下、2022年度よりカリキュラムを一新し、「自ら学ぶ力」と「知識を活用する力」の育成に努めています。これからの社会を見定め、バックキャスティングで教育内容を吟味しつつも、不易の部分は堅持する。その意味で、新しい教育ではなく、むしろ教育の王道を歩み始めたと思っています。職員室は「自分たちで未来を創るんだ」と前向きな空気に満ち、それぞれの授業も工夫されています。ある国語の先生は、教科書に掲載された小説の後日談を書かせてみるという創造性に富む授業をしていました。作者の意図を深く読み込まない限りできない課題です。 そのほか、考えを正しく伝え対話するための「言語力・論理力の育成」。多様な文化に接することで自分を発見し他者も尊重する「グローバルコンピテンスプログラム」。学年やコースを超えた仲間と興味あるテーマを探究する「市邨ゼミ」など、生徒主体の学びを市邨メソッドと総称し、全校で取り組んでいます。 放課後、さまざまな形で自由に集うカフェスタイルの学びの場も設けました。生徒が質問しやすいよう数学カフェなどの看板を立てて先生が待機する教科別のカフェや、外部の方を招いて生き方などを学ぶウェルカムカフェなど。生徒や先生などの発案で自主講座が開かれることもあります。その際は自分たちでポスターを作成し、集客まで行っています。そう、任せることで自ら動くし、学ぶのです。わかやま・かずひこ/1957年生まれ。名古屋工業大学経営工学科卒業後、愛知県立高校数学科教諭。「未来を担う人材を教育することは未来そのものをつくる」という思いの下、生徒指導などに邁進。2006年文部科学省優秀教職員表彰。豊田工業高校校長、明和高校校長などを歴任後、愛知工業大学参与として入試広報を担当。2022年名古屋経済大学市邨高校・中学校副校長。2023年より現職。まとめ/堀水潤一 撮影/村上史彦生徒を信じ、任せさえすれば、自ら考え、行動できることを実感(愛知・私立)市邨メソッドを通し、あらゆる場面で自ら学ぶ力を育成する

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