キャリアガイダンスVol.451
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「今日、家庭科があるのが楽しみ!」と、生徒が思うような授業をしたい。初任の頃から加藤先生はそこを目指してきた。自身が高校生のとき、「学校の授業がつらい」と感じることもあり、でも生活と結びつく家庭科は楽しめた。大学で家政科をさらに学んだら「枕元に教科書を置いて眠る」ほど没頭。そんな家庭科の魅力を、生徒たちに届けたいからだ。教員になったあと、仲の良い友人がなにげなく発した言葉も頭に残っている。「かわいそう、家庭科の授業じゃみんな聞かんやろう、と言ったんです。進学を目指す高校生からすれば、受験科目じゃない家庭科はそういう扱いになることもあるだろうな、と思いました。面白いのにもったいない、聞かなきゃ損と思わせる授業をしよう、と気合が入りました」ただ、自分の力量には自信がなかった。「とにかくあがり症なんです。家庭科も生徒のことも大好きなのですが、教員としての適性はあまりないと思っています」初任校では、引き出しの少なさも痛感。少しでも自信をつけようと、「家庭科に関する資格を1年に1個取る」と決めて続けてきた。カラーコーディネーター、整理収納アドバイザー、菓子検定、金融リテラシー検定…。学びながら「授業に生かせる要素を発掘する」のが楽しくなった。った。授業実践をブログに記録し、自身で        振り返ることも10年近く続けている。こうした取組を重ねることで、加藤先生は、自分なりのアンテナを立てて、幅広い家庭科の情報をキャッチできるようになり、それを基に授業を磨いていった。できたスタイルもある。「50分間で料理を作って食べて後片付けまでする」という調理実習だ。前任校に勤務していたとき、2コマの調理実習を全クラス分は確保できない年度があり、苦肉の策として始めた。すると、1コマなら実習の回数を増やすことができ、回を重ねるほど生徒が調理への自信を深めていったのだ。「生徒たちは小中学校の家庭科で、調理の基礎を学んでいます。その前提のもとに、私の授業では無洗米やだしパックなど調理を簡易化できるものも使い、『おいしいものを簡単に作る』ことを生徒が体験します。それこそ『これなら毎日自炊できる』と思えるように。家庭科で学んだことを、生徒たちがダイレクトに生活に生かせるようにしたいと思っています」目の前の困難を乗り越えるうちに確立前任校では思い切った授業にもチャンレジした。デートから結婚、子育てまでを生徒が疑似体験する授業だ。相手を見つけて二人一組になった生徒や、あえてシングルの道を選んだ生徒に「あなたの子よ」と生卵を渡す。その卵を2週間守りきれるか、各自挑むところまでやった。この授業を鮮烈に覚えていた教え子が、ると大反響となり、加藤先生にも一報をくれたという。彼女はSNSで、当時の授業をこのようにも言い表していた。「私が先生の授業を今でも覚えているのは、私たちが自分の好きなように受け取ってよい授業をしてくれたからだと思う。そして私は大人から寄せられる信頼の喜びを知った、幸せな子どもだったのだ」その言葉に、誰よりも背中を押されたのが加藤先生だった。昨年より、また新たな挑戦を始める。生活のことを生徒が自分たちで考えるディベートの授業だ。家庭科への情熱はあったが教員としての自信はなかったトラブルを糧にして教え子から刺激も受けて30代前半には働きながら大学院にも通調理実習は年10回以上実施。写真は鯖缶と豆腐を使ったハンバーガーのレシピ。加藤先生のオリジナルだ。ディベートに向けての立論準備。テーマに沿って、さまざまな生き方のことを賛否両面から生徒一人ひとりが考える。創立1936年/普通科生徒数711人(男子330人/女子381人)進路状況(2024年3月卒業)大学192人、短大1人、専門学校等5人、就職1人、その他19人10年後、その思い出をSNSにつづった。す校訓は「自主・調和」。勉学を柱に据えつつ、生徒自らが企画・運営する文化祭や体育大会といった生徒会行事、および部活動も盛ん。各教科の授業を英語で進め、知識活用や英語力向上を目指す英語イマージョン教育も推進。2024 JUL. Vol.45152INTERVIEW・教科を超えたつながり保健体育中山伊織先生※ダウンロードサイト:リクルート進学総研>> 刊行物>> キャリアガイダンス(Vol.451)数学百瀬 博先生戸畑高校(福岡・県立)選択することや表現することを大事にして 私の担当教科の数学では、問題の解き方がいろいろあることは示しますが、基本、答えは一つです。加藤先生は家庭科で、絶対的な答えのないものごとについて生徒が「自分で選択する」機会をたくさん作られています。その学びは実生活にもすごく生きると思うんですよね。教科は違っても共通する部分だと感じるのは、「自分の考えを整理して相手に伝える」のを重視されていることです。数学の授業でも、生徒が考えたことを口に出して説明する時間を大事にしています。心身の健康を保ちながら見通しをもって動けるように 加藤先生は、手軽に作れる料理や、災害に備える非常食、部屋選びのポイントなど、実生活や健康に役立つ取組をたくさんされています。私の担当教科の保健でも、生徒が「心と体の健康」について学ぶので、とても参考になるんです。「先のことを見通し、今何をすべきか考えて取り組む」よう促しているのも共通点かもしれません。体育の授業では、生徒が課題に取り組む際に、その先にどうなりたいかをイメージしながら今何をすべきか考え実践していくことを目指しています。

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