キャリアガイダンスVol.453
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の意思で参加した人は、いずれ別の場所で似た知見を得ることはできそうですが、そうでない人は、一生出会うことがなかったかもしれない知見を得た可能性が高いからです。総合的な探究の時間も、ある意味、言い訳から始まる時間と言えるかもしれません。解決したい課題のあるなしに関係なく全員が受ける必要があり、けれど取り組むうちに、のめり込んでいく生徒がいるのはご承知の通りです。総合型選抜への準備も似たところがあります。高校生からよく「職業について調べているので話を聞かせてください」というインタビュー依頼があります。聞けば、レポートにまとめポートフォリオの一つとして大学に提出する材料にしたいとのこと。また、ボランティア団体の代表からは「最近、高校生がたくさん来る」と聞きました。どうも自己PR書類のためのボランティア証明書が欲しいらしいのです。こうした行為を、大学合格を目的とした打算的なものと切り捨てることは簡単です。けれど、やりたいことを見つけたくても、きっかけがなく、将来に対してモヤモヤしている生徒にとっては実は大きな一歩を提供している。ボランティア団体の代表もこう続けていました。「ですがその後、ボランティアを熱心に続けてくれる子が何人も残るんです」と。言い訳をきっかけに何らかの機会に触れることで開かれる新しい世界もあるのです。(次ページからの対談もご覧ください)ません。大手企業で活躍していた方が退職後に始めた、まったく異なる仕事を「これこそ天職」と感じたという話もあります。変化の激しい現代社会においては、いつになっても「本決め」する必要すらないのかもしれません。では、「やりたいことがない」多数の高校生には、どのようなアプローチが有効でしょうか。キャリア観を変えるような社会的経験や機会に意図的に出会うには、それなりの労力がかかります。企業の人に連絡をとったり、地域の大人と話したりといったアクションは高校生にとってハードルが高いでしょう。けれど、そうした耳目を引く行動だけにキャリア観を変える力があるわけではありません。その前の助走のような行動にも少なくない力があることがわかっています。例えば、□挑戦したいことを友人に話してみる。□話したことのない人とコミュニケーションをとる(小さな他流試合)。□友人に誘われたイベントに行ってみる。□がんばっている友人を応援する(応援しているうちに疑似体験したり、焦りが生じたり)など。しかし、こうしたスモールステップの重要性を提唱し、奨励し始めると今度は、若い人から「スモールステップはどう起こせばいいですか?」と質問されるようになりました。私としては、必要性さえ感じれば誰でも実行に移せる小さな行動と考えていたため、こうした問いは想定外でした。反省を込めて、検証し直すなか、浮上してきたのが、「言い訳」の有無でした。例えば、「先生に言われて仕方なく」「親に言われてシブシブ」「友達にむりやり」といった言い訳があることで、人は行動しやすくなります。キャリアに関する何らかのイベントに参加する際、向上心がある様子を周囲に見られることを気恥ずかしく感じる年頃の高校生も、「先生に言われて仕方なく」という顔をしていれば気が楽です。変化が起こる瞬間に注目した場合、動機は体験から生まれており、その体験に接触する際のきっかけは自発的なものに限らなかったのです。若手向けの勉強会後のアンケートで、「本当は来る気はなかったのですが、上司の指示で参加したところ、大変刺激を受けました。例えば…」という長文の感想を頂くことがあります。思うに、そうした機会で最も得をしているのは、なにかしらの言い訳があって参加した人だと思います。自ら「言い訳」を伴うスモールステップが新しいトビラを開く機会に      2025 JAN. Vol.45320スタンフォード大学のクランボルツ教授が1990年代に提唱したキャリア理論。個人のキャリアの重要なチャンスの80%は予期せぬ出来事によって起こるとし、そうした偶発的な出来事が到来した際に機会を逃さないための力、行動特性として「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」の5つを提示。また「未決定」の状態を単なる優柔不断ではなく肯定的に捉え、学習をもたらすための望ましいものの一つとした。金井壽宏(神戸大学名誉教授)が提起した概念。ドリフトとは漂流のことで、流れの勢いに乗るというニュアンスも。自分のキャリアについて大きな方向づけ(キャリア・デザイン)さえできていれば、節目と節目の間は偶然の出会いや予期せぬ出来事をチャンスとして柔軟に受け止めるために、あえて状況に流されるままでいること(キャリア・ドリフト)も必要と指摘。日本で2010年代以降注目されている理論。代表的な研究者である石山恒貴(法政大学大学院政策創造研究科教授)によれば、自らが「準拠している状況」と「その他の状況」を分ける境界を往還し、そこから学びを得ること。いわゆるホームとアウェイを往復することで、ホームだけでは得られない経験や知見を得て、ホームで得たものに組み合わせていく。

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