よって新しいことが見えてくることが多々あります。本校ではグループだけでなく一人での探究も認めていますが、プロセスの中で他者との対話の時間も組み込んでいます」対話は発話でなくても、文章でもかまわない。日頃口数の少ない生徒が書いたものに対し、「こんなに深くて面白いことを考えていたんだ!」と他の生徒がゾクゾクしている様子も頻繁に見られる。対話の相手は生徒や先生以外の外部の人でもよいし、さらには人でなくても、物でも自然でも生徒の心に火をともせるものは無数にある。それも含めての対話なのだ。そして他者とのヨコの対話だけでなく、自分自身の中で深めていくタテの対話も重要だと小坂先生は考えている。 「他者との対話を踏まえて、生徒一人ひとりの心や頭の中で起きている変化を見逃さない見取りの力と共に、探究を楽しむ姿勢が教員に求められています」若狭高校は10年以上前から探究小 に力を入れてきたが、高校での探究が大学の研究のように専門的になりすぎることには懸念がある。統廃合の際、若狭高校の海洋科学科となる旧小浜水産高校のあり方についての目標設定を、ステークホルダーとなる地域の漁師や企業、大学の教員と共に検討した。期待されていることについて、先生たちは水産に関する最新の知識や技術の習得と考えていたが、ステークホルダーたちからは「興味や関心、思考力や協働性を育ててほしい」と言われた。地域から求められているのは資質・能力だったのだ。 「地域の方々との対話で、『何のために学ぶのか』を突き詰めたときに、ある漁師の方が『幸せになるためだろう』とおっしゃった。今、教育振興基本計画などでも謳われているウェルビーイングと一致していて、この言葉にも揺さぶられましたね。探究が始まったとき『時代を生き抜いていくために』という目的がありましたが、社会や時代に適応するためだけに生徒を育成しているわけではなく、一番の目標は生徒たちが幸せになるため。だから探究であまり無理はしなくていいと思います」探究学習を経験した卒業生たちが、一旦は地元を離れて進学し、教員となって若狭に戻ってきている例が増えていると小坂先生は嬉しそうに語った。 「先日、うちの生徒と近隣の小学校に出張授業に行ったのですが、その学校に新任の先生がいて、生徒の見取りが実にうまい。『若いのにすごいですね』と感心して教頭先生に伝えたら『小坂先生の教え子でしょう』と。大人になっていたので気づかずびっくりして。自画自賛してしまいました(笑)」に価値を感じる?」「その気持ちを具体的に言える?」という問いをかけている。こうした対話を、小坂先生は現在も探究の時間で実践し続けている。 「探究は一人でやると思考が固定化して深まりにくいのです。他者の言葉や他者に向けて発することに歩みたいのだと強烈に感じた。 「それまでの自分はしゃべる一方で、生徒の声に耳を傾けていなかった。彼らの声に耳を傾け、対話することで一人ひとりと向き合えるようになりました」生徒との対話は、何が好きで、何に価値を感じ、何を心地よいと思うか、もともと生徒たちがもっているものを引き出すためだ。さらに深めるためには「なぜそう思う?」「どこ対話で育った卒業生が見取りが上手な教員に探究のプロセスに対話を組み込むことで深みが増す探究の授業は1クラスを複数の教員が担当。あくまで生徒主体のため、先生たちは生徒の様子を見守り、生徒の心に火がついた瞬間を見逃さないように努めている。こさか・やすゆき●東京水産大学卒業後、水産高校教員を目指し小浜水産高校に初任。地域と連携した海の再生活動や地域食材を利用した商品開発などを指導。2007年から宇宙サバ缶の開発に携わる。2013年、統廃合により若狭高校海洋科学科に転任。福井大学教職大学院、福井県立大学大学院生物資源学研究科修了。博士(生物資源学)。2025 JAN. Vol.453坂先生は、昨年度まで進路部長を担当(今年度はSSH研究部長)し、その間、国公立大学への進路実績が向上した。偏差値だけではなく、生徒たちが学問領域で進学先を選択するようになってきた。これは探究を、自分のやりたいことを見つけ生き方を知る「自分の動詞探し」と位置づけた効果だと小坂先生は考えている。また、探究によって教員の、生徒一人ひとりを丹念に見取り、生徒の思考を深める問いを発する力が育ってきた。これは生徒支援、キャリア支援だけでなく、教科授業の改善にも繋がる。探究への真剣な取組が、教員の授業力と進学実績の向上に繋がったのだ。 「授業が面白くないと生徒たちの成績は上がりません。教員の授業磨きになる探究は全校教員で取り組まなければもったいないです」私を創っていく機会と選択29探究が教科授業の改善に繋がり進路との接続が明確になった
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