つまり、誰かの問題を解決するテーマであることを意識するよう伝えています」福山みらい創業塾のコンセプトや折田先生の思いに共感・協力してくれたのが地元の企業だった。プロバイダ会社の(株)シナプスは通信環境・機器の整備やICT教育に、トヨタ系列の(株)トヨタ車体研究所は従業員をコーディネーターとして派遣して業務改善や探究の指導にと、学校現場のサポートに入った。さらに、折田先生は大学院時代のつながりから慶應義塾大学の大学生に呼びかけ、メンターとして生徒の探究にオンラインで伴走してもらう体制を整えた。「行政や企業を巻き込んで生徒の探究学習を支えるコンソーシアムを編成し、非営利の社団法人を設立して資金面も含めて持続可能な体制を整えました。また、行政区分を越えて、同じ経済圏である宮崎県都城市の高校や図書館とも連携・協働し、合同発表会なども行っています」福山みらい創業塾の特色の一つが、学科・学年を越えた「異年齢集団」で学ぶこと。1年生と2年生、普通科と商業科の生徒が交じり合い、8グループに分かれてそれぞれの個人探究(マイプロジェクト)に取り組む。各グループは生徒7〜8名ほどで、教員2名とメンターの大学生1名が伴走し、回によっては地域の企業や住民も加わる。各回の報告・振り返り「やったこと(Y)・わかったこと(W)・次にやること(T)」は、チャットツールを使って全体で共有している。「目指すのは、お互いがもつ知識やスキルを共有し合うフラットな関係性。薩摩の郷中教育の現代版ですね。先生が生徒に教えるのではなく、生徒同士が教え合い学び合う協働的な学習と行動を促し、自ら考えて問題を解決する力をつけてほしいと考え、このような形態をとっています」グループに分かれての探究活動を軸に、探究を進めるうえで必要なスキルやマインドに関する授業は学年ごとに受講する。例えば、1年次には、ICT活用、ロジカルシンキング、プレゼンテーション、クラウドファンディング、キャリアデザインなどについてワークショップ形式で学び、地域課題を発見するためのフィールドワークにも出かける。いずれも外部と連携しながらの実践だ。「探究において何よりも重要なのが課題設定であり、生徒にはそのプロセスやロジックを実践的に学んでほしいと考えています。具体的には、目的(あるべき姿)から、目標(あるべき姿を達成するために行動すべきこと)を設定したうえで、現状(現在の姿)を調査・分析します。ここで見えてきた理想と現状のギャップが問題であり、この問題がなぜ発生しているのか、〝Why?〟を繰り返して深掘りし、問題に対して改善すべきこと、つまり課題を洗い出します。目的と目標、問題と課題など言葉の定義にはこだわり、生徒にもその違いを強調して伝えています。また、結論→理由→具体例→結論という順で話すPREP法や、いつまでに何をやるのかを表にしたガントチャートといった論理的思考・表現のツールも取り入れ、生徒が使えるようになるようサポートしています」探究のテーマについては、「自分の好きなことを起点にする」を最重要視しているが、地域課題発見のワークショップなどを行っていることもあり、地域に関するテーマを設定する生徒が多いという。「一度は絶滅した焼酎用の芋でシェイクを作ったり、Adobeのソフトを活用して高校の看板を制作したり、高校の紹介動画を制作したり、地元の焼肉屋さんの収益改善に取り組んだり。自分が好きな爬虫類の魅力を伝えることを通して社会課題に取り組もうとしている生徒もいます。探究の最大の目的はWhyを突き詰めることなので、アウトプットの手段は問いません。ポスターやスライドの生徒が多いですが、演劇などアート的な手法でもOKです」「結果は現状であり、改善するための指標」と考える折田先生。生徒一人ひとりの評価においては、結果ではなくいかに変化したかというプロセスを評価している。指導要録への記載は定性評価である一方、定量的に観察することも大切にしている。「三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)による高校生を対象にした調査結果を見ると、主体性や社会性に関わる学習活動、協働性に関わる自己認識や行動、ウェルビーイングなどの項目において、本校の生徒は全国平均や県平均を上回っています。探究の成果は目に見えにくいものですが、確実に変化は生まれています」定性的・定量的に生徒の変化を観察するWhyを重ねて課題を洗い出す目的と現状から問題を発見し、2025 APR. Vol.45438左上:幻の芋とされる焼酎の原材料「蔓無源氏(つるなしげんぢ)」を地元の農家さんの指導の下校内で栽培。収穫した芋で「焼き芋シェイク」を制作し、地元のカフェとコラボして販売した。右上:慶應義塾大学の学生がメンターとしてサポート。普段はオンラインでの参加だが、年1回、学生が福山高校を訪れて対面で生徒たちと交流する機会を設けている。左下:フィールドワークの様子。地域の魅力・課題・文化芸能・観光資源を発見するため、公民館、観光スポット、美術館、黒酢メーカーなどを訪れ、地域の人から現場や課題について話を聞く。右下:経済圏を同じくする鹿児島県立曽於高校、宮崎県立都城西高校と探究活動の合同発表会を実施。生徒同士の交流により、将来、共に地域を支える仲間意識を醸成することも狙いの一つ。※ダウンロードサイト:リクルート進学総研>> 刊行物>> キャリアガイダンス(Vol.454)「徹底してほしいこと」として折田先生が探究に携わる教員に共有している資料。「Planまでのプロセス」「WHY思考の定着」「PREP法」から「すぐに拍手をして全員で認め合う空間デザイン」「心理的安全性」まで多項目にわたる。
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