キャリアガイダンスVol.457
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授業に「コミュニケーション演習」があります。「グループワークなど本学での学びに必要なコミュニケーション能力を演劇などを通じて身につけること」が主眼ですが、重視するのは身体性を伴ったコミュニケーションです。いくらパワーポイントの使い方がうまくても、発せられる言葉が「その人自身からきちんと出ているか」「自分の身体と地続きになっているか」によって説得力は異なります。さを感じてもらうことも重要です。なぜなら、 「伝えたい」という気持ちは、「伝わらない」という経験からしか生じないと考えているからです。に、どうすれば自分の言葉が届くのか、あるいは届かないのかをシミュレーションします。例えば、電車の中で知らない人に「旅行ですか」と声をかけるシチュエーション。多くの日本人は普通、電車で他人に話しかけたりしません。では、どうすれば自然な流れで話しかけられるのかを演劇を通じて疑似体験するのです。例えば学生Aが、実生活でサッカー好きならば、話しかけられる対象の学生Bにサッ私も担当する1年次必修のオムニバスまた、「伝わらない」ことのもどかし具体的には、価値観が異なる相手カー雑誌を持たせてみる。すると「サッカー好きなんですか」という言葉をきっかけに、「ええ、まぁ」「どうですか今の日本代表は」「どうでしょう、がんばってほしいけど…」と会話が続き、「旅行ですか」という台詞が出てくることを体験的に理解するわけです。ここで強調したいのは、私たちは、コミュニケーションを個人の能力の問題というよりは、コミュニケーションを行う環境のデザインの問題として捉えていることです。多くの日本人は、電車で他人に話しかけないとはいえ、絶対に話さないわけではありません。相手が何か落としたら拾ってあげるし、その際無言ということはありません。そこで、どういう環境であれば話しやすくなるのか考えを深めるわけです。これを私たちは 「コミュニケーションデザイン」と呼んでいますが、この考え方は、どんな組織でも応用が効きます。例えば病院。医師自身の言葉遣いや説明の仕方はもちろん大事ですが、同じくらい大切なのは、患者さんが医師に質問しやすい椅子の配置になっているかどうかなど。壁の色や天井の高さはどうか。受付から診察室までの道のりが患者さんを必要以上に緊張させていないか。これらはみんなデザインの問題です。あるいは会社の会議。意見を言いやすい環境は人によって異なります。普段は他人の視線が気になるけれど、一対一になると饒舌になる若者は多いし、食事を共にするなどリラックスした場であれば本音で話せる人もいるでしょう。だとしたら、通常の会議に加え、例えば中間管理職を省いた取締役と新入社員だけの会議や小人数のミーティングを開くとか、社外でのざっくばらんな懇親会を開催することも有効かもしれません。学生寮を4人一組のユニット制にしているのも、多様性を衝突させるための一種のコミュニケーションデザインにほかなりません。また、本学の授業は1コマ120分に設定していますが、それもコミュニケーションデザインの一環です。というのも、120分という時間は、教員が一方的に話し続けるには長すぎます。すると必然的に、グループディスカッションやロールプレイなどを取り入れざるを得なくなる。アクティブラーニングを促すための制度設計でもあるわけです。私自身は、今の若者のコミュニケーション能力が、私たち世代より劣っているとは考えていません。ノリやリズム感もよく、友人とは四六時中話しているし、SNSを通じて世界中と繋がってもいます。ただ、今の社会は、コミュニケーショ個人のコミュニケーションスキル以上に問題なのは環境のデザイン安全な環境下で行う「伝わらない」という疑似体験       152026 JAN. Vol.457ひらた・おりざ●1962年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。劇団「青年団」主宰。第 39 回岸田國士戯曲賞ほか受賞多数。演劇活動に加え、多方面で教育活動を展開。ワークショップの方法論に基づく教材が小・中学校の国語教科書に採用される。2021年4月開学の芸術文化観光専門職大学の初代学長に就任。大学のある兵庫県豊岡市に家族と共に移住する。兵庫県公立大学法人副理事長を兼務。芸術文化観光専門職大学学長/劇作家・演出家平田オリザさん

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